『機動武闘伝Gガンダム』はかくも型破りな作品だったーー30周年記念プロジェクトへの期待

『機動武闘伝Gガンダム』型破りな作風

 しかし、『Gガンダム』を監督したのは、今川泰宏監督である。派手で仰々しく劇的で熱い今川監督の演出は、「SFか否か」が議論されるようなこれまでのガンダムシリーズとは本来相入れないもののはずだった。だが、武侠要素やガンダムファイトという設定と味付けの濃い今川演出とが化学反応を起こし、『Gガンダム』は一定の成功を収めた。その結果「ガンダムって富野さんが作らなくてもいいんだ」という認識が、作り手にも受け手にも広まった。「ガンダム」というタイトルが監督個人の作家性と切り離され、商業作品としてより広い自由度を得たのである。

 さらに、「主役のガンダムが複数体出てくる」というのも、『Gガンダム』で根付いたパターンのように思う。「ガンダムVSガンダム」については『0083』という先行作品があったし、そもそも『ZZガンダム』では「ガンダムチーム」という概念もあった。しかし『0083』で「ガンダムVSガンダム」という構図が成立したのは、あくまで連邦の開発したガンダムをガトーらが強奪したからであり、『ZZ』でのガンダムチームは新型機の登場によって型落ちになったものをジュドー以外のキャラクターに回していったから成立していた。

 それに対して、『Gガンダム』ではストーリー序盤から主役とその仲間が5人登場し、それぞれが特徴の異なるガンダムに乗っているという形だった。基本的に「ガンダムは量産のできないワンオフの超高性能機であり、主人公だけが乗るメカである」というルールがあったこれまでの作品とは、この点が大きく異なる。この「最初から個性の異なるガンダムが複数体登場し、キャラのたった登場人物がそれぞれのガンダムに乗る」というルールは翌年の『新機動戦記ガンダムW』でさらに効果的に応用され、現在に至るまでガンダムシリーズに大きな影響を与えた。

 さらに言えば、『Gガンダム』の成功によって「宇宙世紀を舞台にしたガンダム作品」「宇宙世紀以外の設定を背景にしたガンダム作品」という二枚看板でビジネスを展開できるようになったという点も、大きな変化だろう。1979年に放送された初代ガンダムからのファンは、1994年の時点ではもう大人になっている。彼らに向けた密度の高い宇宙世紀系の商材を安定して販売しつつ、非宇宙世紀系の作品によって新規ファンや若年ファンを開拓するという商品展開が、『Gガンダム』によって可能になったのである。

 その象徴的商品が、1995年に開始されたガンプラの新シリーズであるマスターグレード(MG)だろう。細部まで作り込むことができるものの、手に余るほどの大きさでもない1/100スケールで、機体の内部構造まで含めてパーツ化されたキットであり、明確に大人になったガンダムファンをターゲットにしたシリーズである。本来ならば「子供向けアニメを題材にした商材」だったはずのガンプラが、大人を狙ったアイテムも堂々と商品化できるようになった。「若年ファン向けには、宇宙世紀もの以外の新規タイトルやSDガンダムがある」という状況が整ったからこそ可能になった商品展開であり、そこに至る道を切り拓いたのも『Gガンダム』だったはずだ。

『MG 機動武闘伝Gガンダム シャイニングガンダム 1/100スケール』

 このように、『Gガンダム』は風通しの悪くなっていたガンダムという商売に大穴を開けた作品であり、極めて破天荒な先例となることで、『ガンダム』と名のつくタイトルに広い自由度を与えてきた。『Gガンダム』がなければ『SEED』も『OO』も『水星の魔女』も存在しなかった可能性があるし、ヘタしたら『ガンダム』というシリーズが立ち消えになっていた可能性も充分にあった。まさに「中興の祖」と言える作品だ。

 その30周年を記念して発表される新作だが、新たに発表されたキャラクターデザインを見る限り、どうにも頭の形がマスターガンダムっぽい。さらに言えば、『Gガンダム』のネタ元のひとつである『秘曲 笑傲江湖』に登場した美貌の怪人・東方不敗に雰囲気が近いことから、東方不敗の若い頃を描いた作品になるのでは……と噂されている。東方不敗の若い頃を描いたとされる作品には、コミックボンボンの増刊号で連載されていた『機動武闘外伝ガンダムファイト7th』があるが、この作品との関連もあるのかないのか、気になるところ。ひとまず『Gガンダム』を見返しつつ、続報を待ちたい。

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