藤子・F・不二雄の「SF短編」実写ドラマに先駆けて知っておきたい、“少し不思議な”宇宙人像

藤子・F・不二雄の「SF短編」に見る宇宙人像

 今春、「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」シリーズ(NHK BS/BS4K)の第2弾がスタート。放送に先駆けて、今回実写ドラマ化が予定されている物語の中から、宇宙人にまつわるエピソードを紹介する。本稿では、人間臭くて、思わず「こんな人周りにいる!」となってしまう藤子・F・不二雄ならではの宇宙人像を考察していきたい。

人間が宇宙人たちのきまぐれに振り回される少し(S)不思議(F)な物語「いけにえ」

 「僕にとっての『SF』はサイエンス・フィクションではなく「少し不思議な物語」のSとFなのです」「体温を感じさせるような人物を創っていきたい」など、生前に漫画やキャラクター作りに関する様々な名言を遺した藤子・F・不二雄。その言葉通り、彼が描く作品のキャラクターたちは、人間だろうとそれ以外だろうと「あ、いるいる!」と思わせてくれる人間臭さが魅力だ。

 「いけにえ」では、未確認飛行物体(UFO)が突然地球上空に居座り、それにデート中の大学浪人生・池仁平(いけにへえ)が見とれるシーンから始まる。その後、池仁平の自宅に新聞記者が訪ねてきて、彼が宇宙人への生贄に選出された旨を伝えたことで人生が一変。その新聞記者は、池仁平を知人の別荘に匿って助けようとするが後日水死。結局、宇宙人への引き渡し日まで政府に保護され、いよいよ宇宙人へと引き渡し(!)ということになるのだが、ストーリーの終盤まで宇宙人たちが地球に来た目的や、池仁平が生贄に選出された理由は何ひとつ分からないままだ。

 それどころか、作中に登場する池仁平の恋人や、彼らが用意した牧師とも「宇宙人の気持ちなんて分かるはずもない」「彼らの行動はすこぶる不可解」などと発言。最終的には、宇宙人たちが池仁平の解放と、浪人生である彼を志望大学へ入学させるよう人間側に要求する、という急展開に。不可解どころかかなり意味不明である。

 この物語のラストシーンでは、「しかしまたなんで宇宙人が裏口入学のあっせんなど」と、しごく真っ当な疑問を持った部下に対して政府要人が「そんなこと知るか‼︎」と一喝する場面も。結局、この宇宙人たちの要求の変化によって、各国首脳がこれまで日本政府にかけていた圧も、池仁平の志望大学の学長に向けられるということが分かったところでこの物語は完結する。宇宙人たちが、何を考えていたのか不明な上に、コロコロと要望や意見が変わり、結局最後まで要求の意図は謎のままだ。まさに「少し(S)不思議(F)」と言える。

 そしてコロコロと意見が変わる相手に合わせて、周囲の人間が振り回される構図はそのまま現実社会の私たちがよく目にする光景だ。この物語を読む時に、あなたの周りにいる上司や同僚、クライアントを思い浮かべれば、すぐ近くに宇宙人がたくさんいることに気づくだろう。

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