被害総額は1年で約455億円……国際ロマンス詐欺の手口とは 背景にあるのは「次はないかもしれない」の心理
印象的だったのが、被害者たちが「ちょっと怪しいと思ったけど、ここでお金を振り込まなかったら相手との関係が切れてしまいそうで怖かった」と話している点である。国際ロマンス詐欺は、「『ここでこの人を逃したら、次はないかもしれない』という心理からつい金を払ってしまい、一度払ってしまうと容易に損切りができなくなる」という、人間心理のバグみたいな部分を突いた詐欺であることがわかる。条件さえ噛み合えば相当な人数が引っかかるであろう、一種のハメ技のような詐欺なのだ。
また、特に恋愛感情がなくてもひっかかってしまうケースがあるのも恐ろしい。SNS経由で甘い言葉をかけてきたこと自体にはさほどピンときていなかったものの、犯人の指示に従って仮想通貨への投資を一度やった結果儲かってしまい、そこからズルズルと投資詐欺に引きずり込まれるケースもあるのだ。一度儲かったために犯人の言うことを信じてしまい、深みにはまっていくというプロセスは「これは自分も引っかかりそうだな……」という説得力がある。
では、これらの事件を起こしていた犯人は一体どんな悪人たちなのか……というのが明らかになっていく本書の後半部分も興味深い。だが、このあたりは実際に本を買って読んでいただいたほうがいいだろう。本書に書かれているナイジェリアについてのエピソードを読めば、「地球にこんな国があるのか……」と暗澹たる気持ちになる。
とにかく「被害額だけで言えば特殊詐欺を超えている」というのが恐ろしいSNS経由の詐欺。犯人たちはどんな心理を利用してどんな手口で被害者に迫ってくるのか、そして犯人たちを生み出した社会構造とは一体どのようなものなのか。それを知っておくだけでも多少は詐欺への予防になるはず。冗談抜きで、facebookやInstagram(警察庁の調査結果では、SNS経由の詐欺で使われるのは男性ではfacebook、女性ではInstagramが多いとされている)のアカウントを持っているのなら、一度読んでおいた方がいい一冊である。