SNSで話題、Payaoの「詩」なぜ多くの人が共感する? 初詩集から感じる「できない自分」を受容する大切さ
詩人/シンガーソングライターとして活動しているPayaoが詩集「僕らは、抱き合いながらすれ違う」を上梓した。「失くしたことで気づける愛」をテーマに、30篇の詩を収めた本作。Payaoは2020年からX(旧Twitter)で詩を投稿し、その言葉に共感したユーザーからの支持を集めている。
本作にはそのなかから反響の大きかった作品のほか、新たに書き下ろされた詩も合わせて一つのストーリーを構成。Payao自身が撮影した写真も掲載し、季節の移り変わりとともに心の動きを感じられるような流れを作っている。
詩人、シンガーソングライターの活動と並行して、広告関係の会社でAI事業にも関わっているPayao。本作「僕らは、抱き合いながらすれ違う」を軸にしながら、現代における詩という表現の意義、AIと言葉の関係などについて語ってもらった。
■音楽活動から、詩の世界に興味が広がる
ーー詩集「僕らは、抱き合いながらすれ違う」が上梓されました。装丁も凝っているし、紙の手触りもいいですね。
編集者と一緒に紙も選ばせてもらったり、表紙のデザインも何案か持ち込ませてもらって。かなりこだわったし、満足できる仕上がりになりましたね。室内にインテリアっぽく置ける装丁だったり、書店で目にしたときのインパクトにもこだわって。最初は本を赤い糸でぐるぐる巻きにしたかったんですよ。男女の手が映ってる写真を表紙にして、「この赤い糸を切らないと読めない」という仕様にしたくて。“失恋”を表したかったんですけど、さすがに却下されまして(笑)。
ーー書籍として出すには、モノとしての価値が必要だったと。Payaoさんはシンガーソングライターとしても活動していますが、SNSで詩を発信しはじめたのは、どんなきっかけだったんですか?
キャリアのスタートは音楽なんですけど、「歌詞がいい」と言ってもらえることが増えてきて、「だったら詩として発信してみよう」と。コロナになったことも大きかったですね。ちょうどライブをやろうとしてた時期にコロナになって、音楽活動が少なくなっていくなかで、趣味ではじめていた写真と詩を日記みたいな感じで投稿するようになったので。やってるうちに少しずつ反応をもらえるようになって、「(Payaoの)音楽は知らないけど、詩は好き」という人も増えてきたんですよ(笑)。
ーーなるほど。Payaoさんが主宰している「深夜の二時間作詩」(土曜22:00〜24:00の2時間で、テーマに沿って言葉を紡ぐ企画)もそうですが、Xのフォロワーのみなさんは詩を作ることにも興味があるようですね。
そうですね。大人になってから音楽をやるのはハードルが高い気がしますけど、「詩だったら」という方が多いのかなと。短歌も流行ってますけど、五・七・五の定型に収めるにはそれなりに技術や知識が必要。詩の場合はどんな文章でも「これが今日の自分の詩です」という感じでやれますからね。最近、「たぶん自分のマネをしてくれてるんだな」という投稿も増えてきてるんです。
ーーPayaoさんの詩に刺激を受けて、「自分も同じようにやってみよう」と思う人が増えているというか。Payaoさん自身も、フォロワーの方の言葉にインスパイアされることもあるんですか?
それはあまりないかな。もともと僕は、他の方の作品を読んで「こんな感じで作ってみたい」ということがなくて。毎回毎回、完全に自分の内側から出てくる言葉だけで作ってるんです。詩が良いとか悪いとかって、よくわからないじゃないですか。自己満でいいというか、自分がいいと思えばそれでいいと思うんです。
ーーPayaoさんの詩に関するポストだったり、それに対する反応は、すごくいい雰囲気ですよね。それも“仕事”ではなく、あくまでも自分の思いを素直に表現しているからかも。
昔からそうなんですけど、ぜんぜんアンチがいないんです。僕がお題を出したときも、すごく思慮深い言葉が戻ってくることが多くて。しかもお題を出してから1時間後くらいから返事が返ってくるんです。「いろいろ考えてみたんですけど」みたいな感じで。
ーー“思慮深さ”は大事なキーワードだと思います。今のSNSは、いかに早く反応して、刺激的な言葉を発するかを競っているような状態なので……。
自分のスレッドはぜんぜんそうじゃないですね。ときどき「僕のフォロワーさんは変わった人が多いですね」って言ったりするんですけど(笑)、深くものを考える人が集まってくれているのかなって。
■自己肯定ではなく、自己受容が大事
ーー詩集「僕らは、抱き合いながらすれ違う」は、「失くしたことで気づける愛」をテーマにした作品。“大切な人はもういない”という状態からはじまり、感情の変化が感じられる作品ですが、まとめるにあたってPayaoさんが意識していたことは?
詩を書くときのスタンスはずっと一貫していて。“自己肯定感が高い”ということが良しとされているなかで、褒められたい、成果を出したいという気持ちを持っている人が多いじゃないですか。それが実現できない場合、すぐに穴に落ちてしまうというか、ポジティブなワードの裏にはネガティブが潜んでいる。自分としては自己肯定ではなくて、自己受容が大事だと思っているんです。成果が出せない自分、褒められない自分も「いい」と受け入れたほうがいいし、自分を許してあげたいという発想が根本にあるんですよね。
ーー自己肯定よりも自己受容。確かに大きな違いですね。
そうなんです。僕はよく「自己肯定が高いですね」って言われるんだけど、みんなにとっての自己肯定ではなくて、「できない自分もいい」と思ってるんだけなんですよね。詩の書き方も基本的にはその考え方に沿っているし、どれだけダメであっても、「それはそれとして受け入れよう」というものが多いと思います。
この詩集もそう。暗いところもあるけど、最終的には「失ったものもあるけど、それもいい」と前に進んでいくというか。そういうスタンスがあれば、生きやすくなるんじゃないかなと。あと、詩って何かモヤモヤするんですよ(笑)。俳句みたいに「収まった」という感じもないし、さっき言ったように評価の基準も定まっていなくて。詩をやっている人は、かなり我慢強いと思います(笑)。なにか問題があったときも、Googleを検索しないというか。
ーー検索してもしょうがない、と。
そう、検索しても答えは出ないし、それでもいいと思っているというか。そういう状態に慣れてる人が、詩を書く人には多い気がしますね。そのぶん深く考えているので、多角的な人になると思うんですよ。答えをバッと出してくれる人が注目されがちですけど、パキッと断言できることなんてないんですよ、本当は。
ーーモヤモヤした状態でいることが当たり前だと思えれば、かなりラクですよね。多くの人はそれに耐えられなくて、答えを与えてくれる人の言葉に飛びついてしまう傾向があるような気がします。
その通りだし、どんどん加速している感じもあります。長く積み上げていくタイプの快楽もあるし、大きなことをやろうとすれば、諦めないでコツコツやるしかないんですけどね。僕の場合は目的もなくて、何のためにやってるかよくわからないんですけど(笑)。でも、そうじゃないと意味がないと思うんですよ、詩は。賞を狙うのも違うし、ただやりたいからやっているだけで。このまま一生続けるだろうなと思ってます。音楽活動はちょっと違っていて、声も変わっていくし、年を取ってから新曲を出すイメージが出来なくて。詩はそんなことを考えなくても済むんじゃないかなと。やめる理由はないですね。そもそも続けている理由もわからないし(笑)。
■AIに詩を書かせるのが難しい理由
ーーPayaoさんはIT企業に勤めていた経験があって。短期的に収益を上げることを目的として企業活動と、目的を持たず続けている詩作は真逆ですよね。
そうですね。じつは今、AIの仕事をやっていて。広告関係の会社なんですが、コピーライティングや企画といったクリエイティブな仕事をAI化する業務に関わっているんです。ChatGPTを使うんですが、たとえば「鋭いコピーを作らせたい」と思ったら、人はどういうことに“鋭い”と感じるかを言葉にして伝えなくちゃいけない。そういう作業を繰り返しているんですが、たぶん詩をAIに書かせるのは難しいような気がします。
ーーAIによる小説の生成は既に行われていますが、詩は勝手が違う?
そもそもAIで書く意味がないと思うんですよ、詩って。商品のPRの文章だったらAIで書けるんだけど、詩には目的がない。その人がどんな性格で、どんな思想を持っていて、何を書きたいと思っているかが大事なので、AI化してもしょうがないというか。AIに日記を書かせても意味がないのと同じですね。
ーー興味深いです。最先端のAIともっとも古い表現である詩は相容れないというか……。
一方で、言葉の残り方はちょっと異常だなとも思っていて。たとえば偉人の言葉もそうですよね。その人が何をしたかを知らなくても、名言だけ記憶に残ってたりするじゃないですか。その人自身の思想や生き様が言葉になっているので、やっぱり鋭いんですよ。詩を書くのも似たところがあって、人生っぽいんです。総合力を見られているというか……。比喩が的確だとか、書き方が上手い人はいると思うんですけど、そういう詩がバズることはあんまりなくて。それよりも「言ってること自体が鋭い」、つまり“What(何を)”部分が大事なんですよね。
そういう詩を読むと「その発想はなかったな」って気づくじゃないですか。何かに気づけるかどうかは、その人自身の目線や発想が面白いかどうかなので、“こうすれば気づけます”という方法はなくて。やっぱり思慮深いかどうかなんですよね。あと、詩を書いていると、感度が上がります。
ーー感度というと?
モヤッとした瞬間やちょっとした違和感、「さっき、すごい瞬間があったよね」みたいなことを言葉にするのが詩だと思っていて。“なんとも言えないアレ”を形にするというのかな。それを続けることで人生の感度が上がっていく感じがあるんですよね。
ーー「僕らは、抱き合いながらすれ違う」の巻末にある「「詩を書く」ということ」には、「伝わらないことを前提に詩を書く。」という一文がありますが、この詩集自体はとてもキャッチ—で、読みやすいですよね。
そう思ってもらえるのはすごくうれしいです。これは僕自身の趣味でもあるんですけど、難しい言葉は使いたくなくて。音楽もそうなんですけど、具体的かつ本格的なものが好きだし、この詩集もできるだけわかりやすく書いたつもりです。漢字をひらがなに開いたり、よりキャッチ—にしていく作業もかなりやりましたね。あとは語呂の良さ、ノリの良さも気にしてますね。リズム感も大事だし、リフレインのほうが読みやすいと思ったら、あえて同じフレーズを繰り返したり。それは歌詞を書いてきた影響かもしれないです。
■なぜかみんなにされる悩み相談
ーー先ほど「目標はない」というコメントもありましたが、この先、詩人としてどんな活動をしていこうと思っていますか?
まず、詩は続けたいですね。できれば本も続けて出したくて。本棚に揃えてもらえたらいいなと思うし、そういうのって“チリツモ”じゃないですか(笑)。谷川俊太郎さんも作品の量がすごくて、自分もそういうふうになりたいなと。あとは……Xのマシュマロ(匿名メッセージサービス)ってあるじゃないですか。あれを使ってたまに質問を募集してるんですけど、なぜか悩み相談がたくさん来るんですよ。「学校の先生を好きになっちゃった」とか家庭の事情とか内容はいろいろなんですが。
ーーPayaoさんの言葉を欲しているんでしょうね。
もしかしたら「汲み取ってくれる人なんだな」と思ってもらえてるのかもしれないし、だったら悩み相談を本気でやってみようと。今、noteで「内緒のお話」という企画を始めています。僕、普段から相談されるんですよ。仕事場の人や家族、カウンセラーには話せない、話したくないことを全く関係ない僕に相談してくるのかな、と。10年くらい会ってない人から電話が来ることもあるんですけど、僕も(相談に対して)好奇心があって。「内緒のお話」で話を聞いているとみんな「人生を知ってもらいたいんだな」と思います。
もう一つはAI。みんなヒヤヒヤしながらAIを見ているかもしれないけど、僕はけっこうポジティブに捉えていて。AIを調べていくと、「人間とは何だ」みたいな話に絶対なるんですよ。人間が感動する何かを作らせようと思ったら、感動そのものを掴む必要があるし、そのためには心理学や哲学を学ばなくちゃいけないんですよね。ヒットするものを見ていても、それまでのセオリーとは外れたものが多かったりするじゃないですか。それを受け入れている人間の感情の動きにも興味があるし、やっぱりAIは面白いなと思ってます。