10年での生存率は10%? 厳しい飲食業界 グルメ漫画の名店、潰れない理由を考察

『美味しんぼ』生と死を彷徨った壮絶エピソード

  日本には和・洋・中さまざまなジャンルの飲食店が存在し、厚生労働省の調査(2021年度)によるとそ140万店舗以上あるという。

  飲食店は、競争が激しいことも事実で、業態にかかわらず10年間店を続ける確率は10%とともいわれ、生存率は非常に難しい。ある程度の売上をコンスタントに稼ぐことができないと、店を存続することはできないのが現状といえるだろう。飲食店経営者にとって「どうやって売上を確保し、長く店舗を維持できるか」は大きな課題となる。

  これまで漫画にも多くの飲食店が登場してきた。どのようにして売上を確保しているのか、気になるところである。そんな漫画の飲食店がどのようにして売上を上げているのか、検証してみたい。

海原雄山の道楽 贅を極めた食材で赤字は関係なし? 
「美食倶楽部」(美味しんぼ)

  グルメブームの火付け役となった『美味しんぼ』。主要登場人物の一人、海原雄山が営んでいたのが、美食倶楽部だった。美食倶楽部は銀座の一等地に店を構え、出される料理は海原雄山が厳選した食材を使っている。料理人や仲居も多く、かなりのコストがかかっているものと見られる。したがって、相応の売上が必要になってくる。

  会員制で政財界の要人が利用した美食倶楽部は「会員になるためには雄山の審査が必要」とされ、かなり高額な入会金や会費を取っているものと見られる。しかし、金額が語られることはなかった。

  美食倶楽部のモデルは北大路魯山人ゆかりの料亭で昭和2年開店の星ヶ丘茶寮だといわれる。この星ヶ丘茶寮は食材にこだわりすぎたため、経営状態は良好とは言えなかったようである。人件費や食材費を考えると、美食倶楽部がじつは経営が苦しい状態である可能性もありそう。もっとも海原雄山は陶芸家としても高名で、陶器が高額で販売されている。美食倶楽部が赤字だとしても、採算度外視の運営なのかもしれない。

料理センスは食通が唸るほど 山岡と栗田は営業時間外に来店? 
「岡星」(美味しんぼ)

  銀座の和食料理店、『岡星』。当初は店主の岡星精一が一人で店を切り盛り。その後、妻の冬美や田山勇一と大里数夫を雇い、店を運営していた。山岡士郎とは銀座界隈の浮浪者「辰さん」の紹介で繋がり、懇意に。一時はほぼ毎日のように山岡と栗田ゆう子が店に通っていたが、広い店にもかかわらず客が入り賑わっている様子がなく、読者から「どうやって儲けているのか?」という疑問が上がっている。

  岡星の料理センスは、山岡はもちろん海原雄山も認めており、味については間違いないとみられる。また、懇意の山岡と栗田が営業時間外に『岡星』に入り料理を楽しんでいる可能性もある。銀座で和食料理店を営み家族を養っているということになると、相応の売上は上げているとみるのが自然ではないか。

地域密着型、ひと工夫凝らした味が評判 
「中華料理 大刻屋」(1日外出録ハンチョウ)

 『1日外出録ハンチョウ』で、大槻班長が訪れた錦糸町の「中華料理 大刻屋」。班長は学生時代からこの店に通っており、長く続いているようである。

  大刻屋で班長はお気に入りのカニチャーハンを食べようとメニュー表を開くと、その下に手書きされていた「オムレツライス」に目を奪われ、注文してしまう。出てきたのはオムレツとライスが別々になった料理で、班長は「なんて質素なメニューなんだ」と呆然としてしまう。ところがこのオムレツは半熟で中身にネギとチャーシュー、そして味覇が入っているという、工夫が凝らされた絶品だった。

  大槻班長の年齢は諸説あるものの40代であることは間違いないようで、学生時代に慣れ親しんだということは、少なくとも20年間は続いていることになる。確かな料理で愛され、コンスタントな売上を上げている料理屋なのでは。

雑誌に載るほどの一流シェフ 料理への研鑽を重ねる
「食事処 ゆきひら」(食戟のソーマ)

  食戟のソーマで主人公の幸平創真とその父である幸平城一郎が運営する「食事処 ゆきひら」。店主の幸平城一郎はマンハッタンで料理長を務めるなどしたのち、世界を回って料理の勉強をしており、その技術は天才レベルであり、雑誌に載るなどして世間的な知名度もあるようだ。そのようなことから「食事処ゆきひら」も、繁盛店である可能性が極めて高い。

  料理漫画では料理そのものにフォーカスが当てられるが、そのなかから繁盛店を生み出すヒントが隠されている場合もある。料理漫画は「食べる側」だけではなく、運営者にも楽しみと「気づき」を与てくれることも人気の秘訣なのかもしれない。

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