『ななつのこ』から30余年ーー〈駒子〉シリーズ最新作『1(ONE)』は思いがけないご褒美のような物語

〈駒子〉シリーズ最新作『1(ONE)』書評

 シリーズを読んできた読者にはすぐに、どこに駒子がいるかがわかるはずだ。20年経ってあなたは今、そこにそうして暮らしているんだね、と感慨に浸った。著者はシリーズ読者にわかるようなヒントを少しずつ物語にまぶしている。そこに気づいた読者は思わず頬が緩むだろう。あったあった、そうだったと、かつてのエピソードを楽しく思い起こすだろう。

 おっと、こんな書き方ではシリーズ読者以外は楽しめないように受け取られてしまうかも。断じてそんなことはない、と言っておかねば。既刊を知らない人はむしろ幸せだ。だってこれから味わえるのだから。本書は物語として独立しているので、これから先に読んでいただいてもいっこうにかまわない。読みながら「この会話はどういうこと?」という箇所がもしあったとしたら。シリーズを遡ったとき、「ああ、これか!」と膝を打つ楽しみが待っている。

 30年越しのシリーズ。前作から20年。これだけの間が空いたのは確かに「待たされた!」感は否めない。けれど同時にそれだけの間が空いたからこそ、本書に生まれたひとつのテーマがある。それは「時の流れを優しく肯定してくれる」ということだ。時が経てば、生活が変わる。家族が増えることもあれば、その逆もある。いろいろあった20年を、主人公家族の変化を通してこの物語は肯定してくれるのだ。まるで読者に向けて、お互いよく頑張ったねと言っているかのように。

 『ななつのこ』で駒子は作家への手紙に「とどのつまり、二十歳になるっていうのも、そんなに悪いものじゃなかった」と書く。その言葉を借りれば、とどのつまり、20年経つというのも、そんなに悪いものじゃなかったーーと思わせてくれる。これはそんな物語である。

 ひとつだけ残念なのは、『スペース』の解説に「わくわくしながらお待ちしていますよ!」と書いた光原百合さんが2022年に病気で他界されたことだ。お読みいただきたかったな。光原さん、素晴らしい完結編が届きましたよ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる