『ブラック・ジャック』髪の色が白黒になった意外な理由とは? 

『ブラック・ジャック』髪の色が白黒になった意外な理由とは? 

 日本の漫画史上においても重要な作品である『ブラック・ジャック』だが、連載開始前はまったく期待されていなかった。当時、手塚は自ら経営していたアニメ制作会社が倒産し、巨額の負債を抱える立場であった。そして、劇画などの人気によって既に古いタイプの漫画家と見なされ、かつてのような人気を得ることができなくなっていたのだ。そんな時代に生み出した『ブラック・ジャック』は手塚にとって起死回生の一打になった作品なのである。

 手塚本人が、『ブラック・ジャック』開始当初、どれほどの長期連載を想定していたのかはわからない。ただ、第1話のブラック・ジャックの登場シーンは、目の箇所に神を貼り、線を描き直すなど修正を加えた箇所もあり(この場面の原画は『手塚治虫 ブラック・ジャック展』でも見ることができる)、試行錯誤をしながらキャラクターを生み出していったことがわかる。

 そして、ブラック・ジャックの様々な設定は多くが後付けである。連載が長期化するにつれて、手塚がその都度考え、付け加えていったものが多い。

 例えば、ブラック・ジャックの髪の色はなぜ、白と黒に分かれているのだろうか。これは『不発弾』というエピソードに描かれている。残っていた不発弾が爆発し、幼いころのブラック・ジャックと母が巻き込まれ、重傷を負ってしまった。その時に味わった恐怖で、髪が白くなってしまったのである。

 なお、この時に手術で一命をとりとめたことで、ブラック・ジャックは医師を志すことになった。そして、この不発弾を残した人物にブラック・ジャックは復讐を誓い、金をがむしゃらにためはじめたのである。これは物語上の重要なエピソードなのだが、手塚は最初からそんな設定を考えていたわけではなかった。特に、黒と白に塗り分けられた髪の毛は、なんと「最初はただの光のツヤだった」と、手塚自らが証言している。

 確かに、そんなことを知らずに1話を見てみると、単なるツヤに見えなくもない。それを見事にキャラクターの造形上の特徴、そして物語の伏線にしたあたりはさすが、手塚治虫と言っていいだろう。

 なお、特徴的なキャラクターの造形は、後になってから物語上の伏線や重要な設定として生かされることが多い。ブラック・ジャックの顔のツギハギなどもそうだし、『るろうに剣心』の剣心の顔の十字傷などもそうである。後から魅惑的な設定が追加されることで、より感情移入しやすくなったキャラは、漫画界にたくさんいるはずだ。

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