立花もも 新刊レビュー 懐かしい名作の新装版からドラマ化作品など今読みたい4作品
丸山正樹『夫よ、死んでくれないか』双葉社
一転、物騒なタイトルであるが、実は内心そう願ったことのある女性は、実は少なくないんじゃないか。それが叶わないなら、ある日急に失踪してしまうとか、突然頭を打って別人のように素敵な男性に様変わりするとか。そんな夢のような話が本作では二人の女性の身の上に起きる。
大学時代から仲のいい、30代後半の女三人。一人は典型的なオレ様夫と離婚したバツイチ・璃子。二人目はモラハラ夫に苦しめられるも娘のために離婚ができない友里香で、もう一人はタイプが違うからと惹かれたはずの夫と没交渉で冷え切った日々を送る麻矢。この麻矢が本作の主人公で、ある日、酔った勢いで口論した翌日に夫がいきなり失踪してしまう。その直前に、友里香が口論の末に夫を突き飛ばし、意識不明になったところを三人で始末しようともくろむ、なんてエピソードがあるだけに、まさか知らないうちに殺してしまったか!?とハラハラさせられる。
けっきょく友里香の夫は記憶喪失、善良になった彼と友里香は再構築をはかるのだが、その友里香が麻矢の夫失踪に関わっているかもしれない疑惑が浮上し、事態はどんどん混線していく。誰もが幸せになれると信じて結婚する。だが、「普通の幸せ」なんてものは幻想にすぎず、人がいかに身勝手で傲慢かをえぐりだす本作。我が身を顧みずにはいられない。
佐藤ゆき乃『ビボう六』(ミシマ社)
〈この世界には、大切なことが六つあって、全部集めたときに、世界がひとまず完成するそうです。〉〈ほら、夜は四角いというでしょう。誰かにそう聞きました。たしかに、空があって、大地があって、あとは東西南北。これでほら、六面体の箱型になり、夜はその中に満ちているんです。〉
ランダムに抜き出すだけで詩として成立するような文章が並ぶ、京都文学賞の第3回受賞作。百年以上生きる怪獣エイザノンチュゴンス(通称ゴンス)と、彼が出会った記憶喪失の小日向さんという女性が、白いかえるを探して京都の夜をさ迷い歩く、幻想的な物語。比叡山の僧だったこともあれば、土蜘蛛として源頼光に成敗されたこともあるゴンスは、小日向さんに恋をする。
けれど小日向さんは、自分が美しくないことを罪悪のように背負い、好きな人に必要としてもらえない苦しみを抱えていた。二人の散歩の合間に、小日向さんが失ってしまった記憶――恋人にぞんざいに扱われ、容姿を貶められて尊厳を失っていく過程も描かれる。ゴンスとの散歩は、そんな小日向さんの傷を癒す旅でもあるのだが、なぜ彼女が人ならざるものの跋扈する夜の京都に迷いこんでしまったのか、想像すると、文章が美しいだけに胸がぎゅっとなる。