漫画ライターが選ぶ「2023年コミックBEST5」ちゃんめい編 『猫に転生したおじさん』などバズる作品続々
今年も豊作の台湾漫画『守娘』
『用九商店』や『緑の歌-収集群風-』などを筆頭に近年注目されている“台湾漫画”。2023年7月には第14回日本国際漫画賞で最優秀賞を受賞した『送葬協奏曲』の日本語版『葬送のコンチェルト』が刊行されるなど、今年も台湾漫画が大豊作だった。だが、8月に発売された『守娘』の衝撃たるや凄まじいものだった。
台湾最強の女幽霊と呼ばれる陳守娘伝説を題材にした『守娘』。恥ずかしながら本作をきっかけに“陳守娘”の存在を知ったのだが、物語を辿っていくと「怖い」や「台湾最強ホラー」だのそんな言葉で片づけられない、いや片付けてはならない切実さが見えてくる。
そもそも“陳守娘”という女幽霊が生まれた理由。本編を読み進めていくと、当時の社会情勢や、それに伴う女性の地位の低さが根深く関わっており、女性であるがゆえに非業の死を遂げた........決して望んで幽霊になったのではない、悲しき一人の女性の人生が見えてくる。『守娘』は、そんな陳守娘伝説をベースに名士の娘・潔娘と、ひょんなことから出会った済度師(霊媒師)が、突如襲いかかってくる怪奇現象、そしてそれによって明らかになっていく女性の誘拐や人身売買といった巨悪な事件に立ち向かう様子を描く。
作中で描かれる、足の小さな女性が魅力的だとされ、足に布をきつく巻く纏足という風習。女性は男を産む道具のように扱われるシーン........。陳守娘が誕生した時代はもちろん、潔娘の生きる時代はそれが当たり前だった。本編で描かれる女性に対する差別どころか悲惨な抑圧の歴史に、やるせない気持ちが込み上げる。だが、ここで唯一の希望として描かれるのが、他ならぬ主人公の潔娘なのだ。
この時代に纏足をしていない、さらには結婚できる年齢になっても縁談話に消極的.......そんな潔娘は、義理姉や親戚たちから疎まれている存在だが、彼女は決して自分の人生を諦めない。怪奇現象に誘われるように社会の闇に立ち向かい、その先に辿り着いたこの時代に“一人の女性”として生きる道。
『守娘』は台湾最強の女幽霊と呼ばれる“陳守娘”伝説を題材とした物語だが、決してホラー作品ではない。陳守娘伝説を通して女性の差別・抑圧の歴史に切り込みつつ、潔娘という新たな主人公を据えて、世の中への怒りと、それでもなお立ち向かおうと全てに抗い、挑み続ける.......作り手の並々ならぬ覚悟を感じる、意欲作だった。
よしながふみ先生の最新作『環と周』
最後に選んだのは、『大奥』『きのう何食べた?』で知られるよしながふみ先生の最新作『環と周』。今年の7月まで「ココハナ」にて隔月で連載された1話完結型のオムニバス作品で、10月に待望のコミックスが発売された。
主な登場人物は、タイトルにもある通り“環と周”という2人。だけど、この2人は現代、70年代、戦後、明治、江戸時代など、どの時代にも存在する上、時代によって性別はもちろん、夫婦、親友、ご近所さん.......と、関係性も異なる。『環と周』はそんな2人がたどる数奇な運命と因果を描いた一冊だ。
いわゆる輪廻転生系の話だが、ラブストーリー一辺倒ではなく関係性ごとに異なる「好き」の形を描いている点。そして、ラスト2話で「そうきたか!」と膝を打つような、胸がいっぱいになるような......そんな見事なエンディングに衝撃を受けた。
ネットでもリアルでも、自分と今こうして関わっているあなたと、君と、全ての人たちとの間には、きっと時代を超えて紡がれている“何か”があるんじゃないかと。読み終わったあとは、ついベランダに出て空を見上げたくなってしまったし、10月という今年の終わりを意識し始めるセンチメンタルな季節にぴったりの作品だった。