麦倉正樹が選ぶ「2023年歴史小説BEST5」 平安時代から江戸時代まで、多様な視点で描かれる物語
そして、最後にもうひとつ。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)の影響もあり、今年各方面で盛り上がりを見せた「徳川家康」関連書籍だが、それ以前から「文庫書き下ろし」という形で、着々と巻を重ねてきた井原忠政の『三河雑兵心得』シリーズをピックアップ。「物語」としてのリーダビリティの高さはもとより、雑兵目線で戦国時代を描くこのシリーズ、やっぱり面白い。13巻目にして、その最新刊にあたる『奥州仁義』では、いわゆる「奥州仕置」が終わり、いよいよ豊臣秀吉の「天下統一」が成し遂げられようとしている。
主人公の主君である「家康」は、ここからどんな動きを見せていくのだろうか――というのは、歴史をひもとけば明らかだが、そんな時代の「大きな変化」の中で、武士たちのメンタリティが徐々に変容していくところまできっちりと描かれているところが、本シリーズの何よりも興味深いところだ。武力で領土を奪い合う戦国の世は、そして武功で出世する時代は、そろそろ終わりを告げようとしているのか。その中で、本作の主人公である名もなき武将「茂兵衛」は、どこに活路を見出していくのだろうか。引き続き、今後の展開が楽しみなシリーズだ。