「パクってますね」「盗作でしょ」SNSの相次ぐクレーム……子供たちの書き込みが多い根深い問題
名誉毀損を認め、121万円の支払いを命じる
『少女革命ウテナ』などの作品で知られるアニメーション監督・幾原邦彦氏が、イラストレーターを名乗る女性に440万円の賠償を求めた訴訟の判決が12月13日にあった。東京地方裁判所立川支部は、女性が名誉毀損および業務妨害を行ったと認め、幾原氏に対し121万円の支払いを命じた。
被告女性は「自身の作品を盗用されている」として、幾原氏に誹謗中傷行為を繰り返していた。だが、筆者も問題となった作品を見てみたが、どう見ても似ていない。裁判でも、盗用の事実はなかったと認められた。
同様の被害に遭っているクリエイターは非常に多い。特に、ネットで漫画を発表している漫画家のもとには、SNSを通じて「盗作じゃないか」と誹謗中傷のコメントが寄せられる例が相次いでいるという。出版社に対し、「この作家は盗作をしている、連載を辞めさせるべきだ」などと、攻撃的な電話があったケースもあるそうだ。
「盗用」や「盗作」という言葉は、2019年に京都アニメーション放火殺人事件を起こした青葉真司被告が主張していたこともあって、あるクリエイターは「向こうは軽い気持ちで言っているのかもしれないが、非常に怖い。長文で中傷のメッセージが送られてきた時は、身の危険を感じることもある」と話す。
今回の幾原氏と被告女性のイラストは、誰が見ても似ていないのであるが、そもそも創作の大前提として、偶然に設定が似通ってしまうことはある。ましてや、細かい設定などであれば似てしまうことが大いにある。しかし、そういった細かいことに対してまで、言いがかりをつける人が後を絶たないのだ。これはネット社会の弊害ではないだろうか。
ダイレクトに感想が伝わるコメントの是非
ウェブコミックでは読者が感想などのコメントを書き込める仕様になっているものが多く、新作がUPされると、ネット掲示板やSNSで話題に上ることは多い。こうしたコメントは作者にとって励みになることが多いが、やはり誹謗中傷的なコメントを書き込む人物は一定数いる。目に付くのが「あの漫画に似ていますね」などのコメントであるという。
筆者が知る漫画家は、「漫画家によっては、こういうコメントも発奮材料として努力する人もいるとは思います。ただ、個人的にはコメント欄は廃止して欲しい。自分が繊細過ぎるのかもしれないけれど、できればコメントはもう少し精査したうえで載せて欲しい。私のXに長文で批判的なコメントをするのも、できれば勘弁して欲しい。Xをやるなと言われたらそれまでだけれど、お互いに気持ち良い環境でネットが楽しめるように、できないものでしょうか」と、訴える。
紙の漫画雑誌の場合は、ファンレターを編集者がチェックし、批判的、否定的なコメントは弾いてから漫画家に手渡している。ネットはそういったチェック体制がなく、ダイレクトに作者に意見を伝えることができるようになった。これはもちろん良い側面もある一方で負の側面も多分に生じているわけだが、対策が進んでいるとは言い難い。
小学生がネットで誹謗中傷をする例も
ところで、こうしたコメントを書き込む層は、もちろん大人がほとんどなのだが、小~中学生も多いといわれる。かつて存在していた小学生向けのネット掲示板には、少女漫画雑誌のある作品を名指しして「このキャラクターは盗作ではないか」「パクリだ」と作者を糾弾するコメントが相次いでいた。
こうした「盗作」「パクリ」は漫画が全盛期だった1980~90年代、小~中学生の間では漫画の荒探しが流行った。「あの人気漫画の〇〇と、あの漫画の〇〇はよく似ている」などと、話したことがある人は意外といるのではないだろうか。「盗作を見つけた俺は凄い」などと誇りたくなる一種の中二病といえるが、本来、仲間内だけで交わされていた言葉がネット上に吐き出されてしまうと大変である。
現在、小学生でもスマホを手にするケースが増えた。そして、軽い気持ちで書いたコメントが、クリエイターを傷つける例もあるのだ。本人は悪気がなく、誹謗中傷のつもりでもないことが多いから、余計にたちが悪い。スマホの使い方やネットのマナーを教える機会を、学校や家庭でしっかり設けるべきではないだろうか。