『本好きの下剋上』マインの挑戦はなぜ人を惹きつける? 厳しい世界で前向きに生きる主人公の魅力

『本好きの下剋上』マインの挑戦

 第三部は以後、ローゼマインとなったマインが自分を陥れようとした神殿長を更迭する形で新たな神殿長の地位に就き、神官長のフェルディナンドとともに神殿の運営に取り組む。「第二部 神殿の巫女見習い」で関わった孤児院の運営にも携わり、印刷物を作る工房で多色刷りの絵本の制作といった難題にも向き合っていく。

 加えて貴族の養女となったことで、貴族社会における権力争いにも巻き込まれていく。これが厳しい。肉親であっても親類であっても、権力に逆らえば断罪される貴族社会の非情さが見え、その非情さがあるからこそ統治も可能といった社会のリアリスティックな有り様を分からせる。

 そんな厳しい日々でも、何かを生み出す楽しさを存分に味わおうとしているマインの姿を見ていると、もっと攻めた人生を送ってみたいとも思わされる。貴族社会の一員になったマインは、孤児院へのチャリティとしてパーティーを企画し、その目玉としてフェルディナンドによるフェシュピールという楽器の演奏会を実施する。

 いったい何が起こるのか。人気アイドルが登場するディナーショーを想像すればわかる事態が、異世界の貴族社会で繰り広げられる楽しさを味わえる。マインが印刷機を使って作り出したものが、今のライブやアイドルイベントでは普通のものありながら、経験のない異世界の女性たちに驚きと幸運をもたらす展開も。世界が変わっても"推し活”スピリッツは変わらないようだ。

 第三部では、マインが「身喰い」という身体的なハンディをなくそうとして治療に必要な材料を集める展開もあって、いよいよ本格的にマインの時代が到来かと思われたところで驚きの事態が起こる。「第四部 貴族院の自称図書員」を経て「第五部 女神の化身」へと続いて12月9日発売の『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んではいられません~ 第五部 女神の化身Ⅻ』で完結する物語の、ターニングポイントとも言えそうなシリーズだけに、アニメ化をきっかけに改めて内容を確認しよう。

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