楠本まき、上條淳士……90年代のカリスマ漫画家、今再び注目を浴びている理由

90年代のカリスマ漫画家たちに脚光

 ファッションで「Y2K」などのブームが起きたのと同様に、昨今エンタメの世界でもリバイバルブームが加速中だ。TVでは『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』や『らんま1/2』など90年代のヒットアニメの再構築版が放送され、「冨樫義博展 -PUZZLE-」や「CLAMP展」をはじめ、有名漫画家の処女作から最新作までを総特集した大規模展覧会の開催も相次いでいる。

 中でも、『KISSxxxx』をはじめ90年代に人気を博した代表作の愛蔵版が次々と発売されている楠本まきや、デビューから40周年を迎え現在原画展も開催中の上條淳士など、90年代に人気を博した漫画家や彼らの作品が再び注目を集めている。本稿では、そんなカリスマ漫画家たちが今注目を集める理由を考察したい。

90年代ロックバンドの周年ニュースや再始動がアニバーサリーイヤーの後押しに

 まず、理由の1つ挙げられるのは、90年代にヒット作品を生み出した楠本や上條と同様、彼らに影響を受けたロックミュージシャンやバンドのアニバーサリーイヤーが集中している点だ。

 楠本まきは1984年に「週刊マーガレット」でデビュー。90年代には、『KISSxxxx』『Kの葬列』『致死量ドーリス』などを発表し、アート作品のように繊細でおしゃれなイラストやパンクロックやゴシックファッションのエッセンスが散りばめられた作風で人気を博した漫画家だ。上條淳士は1983年にデビューし、その後、音楽漫画の金字塔となった『To-y』や、『SEX』『赤×黒』などを発売。シャープな絵とこだわりやセンス光る作品が評価され、漫画だけでなく企業広告やミュージシャンのアルバムジャケットなども手がけた。

 いずれも2024年から2025年にかけてデビュー40周年を記念した原画展などを実施中だが、同じ90年代に活躍した有名ミュージシャンたちもまた、周年イヤーやバンド再始動のタイミングを迎えている。例えば来年の年明けには、90年代を代表する複数のバンドが大規模コンサートや再始動公演を予定している。

・1月18日-19日 L'Arc~en~Ciel(東京ドーム)
・2月8日-9日PIERROT(有明アリーナ)
・2月9日、11日 黒夢(東京ガーデンシアター)
・2月22日 LUNA SEA·GLAY(東京ドーム)
・2月23日 LUNA SEA(東京ドーム)

 楠本まきや上條淳士が40周年を迎えるのと当時に、彼らが作品の題材に描いてきたロックバンドや、その作品に影響を受けてきたミュージシャンたちもまた、アニバーサリーイヤーや活動の節目を迎えている。漫画界と音楽界、両業界の相乗効果で90年代の作品たちが再び注目を集めているのだ。

アート作品のようなコマ割りや情報量の少なさが今の時代だからこそエモい

 楠本まきや上條淳士の作品に触れてみて感じるのが、ストーリーを補完する説明ゼリフの少なさが、むしろ今っぽいのではないか、という点だ。

 キャラクターが複数名登場しているにも関わらず、顔のアップや背景描写だけでセリフも効果音描写も一切ない場面や、ライブ演奏シーンを歌詞で表現しないことも。繊細かつシャープな線で描かれた美男美女とドラマチックなコマ割り。そしてストーリー重視の従来の漫画とは一線を画す文字情報の少なさ、こうしたアート性が出版当時のカルチャーシーンに与えた影響は大きい。しかし、これらの特徴は時代を経ても古びないどころか、YouTubeなどでショート動画慣れしエンタメにスピーディーな展開やヴィジュアル要素を求めるようになった現代にこそハマる部分もあるのではないだろうか?

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