日曜劇場『下剋上球児』ドラマとは異なる原案の面白さ 自信を失くした球児が甲子園を掴めた理由とは
TBS系列、日曜劇場でスタートした『下剋上球児』。鈴木亮平、黒木華らの好演にも支えられ、無名高校が甲子園をめざすドラマは、可能性に満ちた高校球児らしさで視聴者をワクワクさせている。しかし、この破天荒な物語は、実際にあったノンフィクションを原案としたもの。そこで、今回はその原案となった『下剋上球児』(カンゼン)の著者、菊地高弘氏にインタビューを敢行。ドラマとは少し違う、リアルな高校野球も見えてくる。
野球作家、まさかの日曜劇場?
――菊地高弘さんといえば、有望な中高生らと野球雑誌で真剣勝負をして、それを記事にする「菊地選手」として、野球雑誌界では知られた人です。その菊地選手名義での著書『野球部あるある』(集英社)シリーズなんかは、野球小僧らのバイブルかつ、おもしろおかしくテキトーに読む本でした。それが、日曜劇場の作家に?
菊地:いや、連続ドラマの候補になっていると聞いて、出版元のカンゼンの担当さんと一緒にドキドキしていたんですよ。
――実際にドラマになっちゃいましたね。
菊地:もうね、衝撃です。だって、あの『VIVANT』の日曜劇場ですよ。なんか、この世には日曜劇場の原作、原案者リストみたいなものもあるんです。山田太一さんとか、山崎豊子さんとか、もちろん、池井戸潤さんとか……。そんな中に、「菊地高弘」と並ぶ。変ですよ。
――菊地さん自身がバリバリに下剋上ですね(笑)。ただ、菊地さんが描いたのは、高校野球の世界でも話題になった三重県白山高校の夏の三重県選手権大会優勝。つまり、甲子園出場です。本物のノンフィクションです。
菊地:本の中にも書いていますが、ちょうど、第100回全国選手権の記念大会だったんです。規定で出場校も増えて、少し特殊な大会でした。
――キャッチフレーズが「本気の夏。100回目。」でした。最初から雰囲気が例年とは違っていました。
菊地:そんな中、三重県で無名だった白山高校が勝ち上がったんです。10年連続で夏の県大会初戦敗退だった学校です。たくさんのマスコミが流行したマンガにちなんで「リアル『ROOKIES(ルーキーズ)』」なんて報道した。もちろん、僕もアマチュア野球の伝え手として、取材に行くしかない。
――その取材をきっかけに、『下剋上球児』が生まれた?
菊地:いや、それだけでこの本は書けないです。ただ、リアルタイムの取材が大きな下地にはなりました。そして、僕は甲子園に行った軌跡を、ちゃんと調べなきゃいけない気になる。追加取材をすると、白山高校の方々も、地域、関係高校の方も、とても真摯に応じていただけた。
――「弱小校の甲子園出場!」だけの物語ではないですよね。
菊地:スゴイ話をいただいたと思いました。濃密な中身です。この材料で映像化されない書き手では恥だと思ったくらいです。それくらいに自分の中に手ごたえがありました。いや、まさか日曜劇場になるとは、思ってないですけど(笑)。
自己肯定感の低い高校生たちの成長と躍進
――その『下剋上球児』という本は、普通に地方で学校に通う、普通の高校生の話にも感じました。
菊地:特別な存在ではないですよ。野球でも有望な選手って、三重県だと愛知や岐阜、滋賀、和歌山なんかの有名私学に進むことが多い。三重県内にも強豪校はある。でも、公立の白山高校に入ってきた子たちです。
菊地:そう思いました。自己肯定感が低いと表現しましたが、自分に自信がない。ヤンキー風になるんですが、それもなりきれない。
――ヤンキーと言っても、あちこちで暴れる昭和のそれとは違いますよね。
菊地:無気力というのが正しい気がします。行きたい学校に行けなかった、という気持ちがある。で、人生終わった、と思い込んでいる。すぐに部活をやめたがる。そして、刹那的に学校もやめて、近所で働こうとする。
――まあ、部活をやめたくなるのは、どこにでもある高校生の姿ですよね。
菊地:部員の多い強豪校なら「やめたければ、どうぞ」で終わったかもしれない。でも、部員の少ない白山高校では、そうはいかないのでエピソードが生まれる。
――青春のど真ん中で、いろいろ心が揺れる時期ですからねえ。
菊地:僕も元は高校球児です。嫌になって野球部仲間と都内の立川に映画を観にいったことがあります。しかも、選んだのはメグ・ライアンとトム・ハンクスの『ユー・ガット・メール』ですよ。坊主で恋愛コメディですからね。かなり、心が弱ってたと思う(笑)。
――切ない告白、ありがとうございます。だけど、菊地さんの母校から、わざわざ立川に行くんですね?
菊地:近所だとバレるでしょ。だから、ちょっと遠くに行くもんです。
――まさに、「野球部あるある」ですね。