『美味しんぼ』料理よりリアル? 山岡士郎、海原雄山……生と死を彷徨った壮絶エピソード

『美味しんぼ』生と死を彷徨った壮絶エピソード

  人類はもともと果物や植物を食物とし、その後知能を活かした狩猟の道具や火を熾すことなどを覚えると、肉食を開始。栄養をしっかりと摂ることができるようになったことが繁栄の第一歩と考えられている。

  料理は生きるための礎。食べることを止めてしまうと、死に至る。『美味しんぼ』は高級食材と料理を取り扱った漫画だが、リアルな「生と死」を描いた描写もあった。そこで今回は『美味しんぼ』の登場キャラが死にかけたエピソードを振り返りたい。

山岡士郎 サルモネラ菌で意識不明

  栗田ゆう子に結婚を迫る団社長と近城カメラマンの問題が緊迫化するなか、山岡は突然東西新聞社のデスクで倒れる。様子を見た三谷と荒川は「放っておきなさい」「また二日酔いよ」とバカにするが、事態は深刻で救急搬送される。

  付き添った栗田は医師から「大急ぎで家族の方に知らせたほうがいい。かなり危険な状態」と申告されると、倒れそうになってしまう。その後医師は原因について「サルモネラ菌。サルモネラ菌による食中毒は非常に危険で命に関わることがある」「抵抗力が落ちているため重篤になった」「今日明日が山」と説明。さすがの三谷と荒川もショックを受け、富井副部長も「究極のメニューの担当者が食中毒で死んではしゃれにならない」と言葉を失った。

  病院のベッドに横たわり、物言わぬ山岡。状況を聞いた海原雄山は「病院の設備を見る」と称して病室の前まで来るも、帰ってしまうなか、栗田が徹夜で回復を祈る。結局、栗田の願いが通じて山岡は目を覚まし、2人の様子を見た団社長と近城は結婚を取り下げた。

『美味しんぼ』を通じて山岡が本気で死にかけたのは、この回が最初で最後だった。

栗田ゆう子 まずかったら死刑

  結婚前、栗田に命を救われた山岡だが、栗田の妊娠後、殺されかけたことがある。これは夫婦揃って出勤する際、栗田がマタニティドレスを着たことに山岡が不満を示したことを発端としたもの。

  山岡のほかに団社長、中松・大石両警部、快楽亭ブラックも同じくマタニティドレスの妻に不満を示し、怒らせてしまっていた。この様子をみかねた谷村部長は男性陣と女性陣を招き、山岡たちに妊婦の苦労を経験させることで、妻たちの許しを請う。

  すると栗田は「じゃあこうしましょう。用意した料理が美味しかったら許す。まずかったら死刑」と宣告。結局山岡が生鮭のしゃぶしゃぶで満足させて事なきを得たが、仮に「まずい」となった場合、死刑になる可能性があった。

鈴子 失恋からの自殺未遂

  美食倶楽部の仲居、鈴子。岡星精一の弟・良三が想いを寄せていたが、同じ美食倶楽部の料理人・古崎という男と恋仲になり、婚約をする。ところが古崎という男は鈴子を裏切り、大料亭の娘と結婚してしまった。

  鈴子は美食倶楽部で睡眠薬を飲んで自殺を図り、救急搬送される。幸い発見が早かったため、一命はとりとめたが、食べ物を一切食べない、他人の呼びかけに応じないなど、放心状態に陥った。

  暴君として描かれてきた初期の海原雄山だが、「美食倶楽部で預かった仲居をこんなふうにして親御さんに申し訳ない」と鈴子に最高の病院を紹介するなど、優しさを見せている。結局良三が悩んでいることから、料理主任の中川からこの話を知った山岡士郎がハバノリを用意したことで、鈴子は生気を取り戻した。

  美食倶楽部で自殺を図るという描写は、非常にショッキングなものだった。

海原雄山 車に轢かれて危篤

  年齢不詳の海原雄山は作品中つねに元気で、大物の雰囲気を漂わせていた。そんな彼が、死にかけことが一度だけあった。

  孫と遊び、初期には考えられないような優しい表情を浮かべた雄山だが、突然交通事故に遭遇する。事故の描写はなく、電話で「雄山が交通事故に遭い全身を強く打って意識不明の重体」という連絡が入った。

  山岡は病院に行くことを拒否するが、栗田から半ば脅迫される形で病室を訪れると物言わぬ雄山が酸素吸入器をつけて横たわっていた。かなり重篤な状況で周りが死を覚悟せざるを得ない状況だったが、山岡が「おやじ…」と声をひねり出すと、雄山は目を覚ます。そして「士郎の声がした」とつぶやいていた。

  命があるからこそ料理を楽しむことができる。そんなことを教えてくれるような、『美味しんぼ』の死と直面したシーンだった。

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