Netflixで実写ドラマ化した話題作『御手洗家、炎上する』 あの日、なぜ火事が起こり一家は崩壊したのか

『御手洗家、炎上する』レビュー

 燃える家の前で土下座する女性の姿から物語が始まる『御手洗家、炎上する』(藤沢もやし/講談社)は、火事を起こしたのが本当に彼女なのかを探るミステリー漫画だ。2023年7月、Netflixで全8話の実写ドラマとなり、子役出身で現在も活躍を続ける永野芽郁、今や日本を代表する人気女優のひとりとなった北乃きい、1980年代後半のデビューから今まで第一線で活躍を続ける大女優の鈴木京香といった豪華キャストがキャスティングされた。

 本作が注目を浴びた理由はもちろんそれだけではない。長編のドラマではないからこそ、無駄を省いたテンポの良さが生まれ、意表をつく展開が話題を呼び、ドラマから原作漫画を手にする人も少なくなかったはずだ。『御手洗家、炎上する』はヤンマガWebやピッコマなどで、無料で読める話数も多く、気軽に読み始めることができる。本作をあらためて振り返り、その魅力を考察したい。

 『御手洗家、炎上する』は冒頭から読者の想像力をかきたてる。燃える家の前で土下座する女性の姿はセンセーショナルであり、ここからどのように物語が動くのだろうと読者の胸を騒がせる構成だ。

 火事の後、土下座している女性が転落するさまを描くのか、時をさかのぼって火事になるまでの過程をあぶりだすのか、もしくは火事を起こしたのは別人で、この土下座をしている女性の復讐がこれから始まるのかーー筆者の三つの予想はどれも的中しなかった。すぐに場面は火事のあった日から13年後に切り替わり、土下座していた女性ではなく、時を経て成長した彼女の娘ふたりにスポットがあたる。冒頭で土下座をしていたのは、代々病院を経営している御手洗家の主婦・皐月であり、皐月の娘たちもかつては御手洗家の令嬢だった。しかし火事の後、両親は離婚をして、今は母の友人だったシングルマザーの女性・真希子が、父の後妻になっている。13年前まで、真希子は皐月のママ友でもあった。

 聡明な25歳の女性に成長した長女の杏子(あんず)は、火事のあった夜、燃えさかる自宅の前に集まった人々の中に真希子を見つけ、彼女の表情に笑みが浮かんでいたのを覚えている。その後、両親は離婚、娘たちは母に引き取られた。父の治が真希子と再婚をして住んだ家は、かつて御手洗家が全焼した場所に建てられた。

 杏子は真実を探るため、偽名を使い家政婦として御手洗家に潜入して、正体を悟られずに真希子と接触することに成功する。一方、次女で杏子の妹の柚子(ゆずこ)は無邪気で明るい性格で、杏子の行動を心配している。杏子もまた妹には危険な目に遭ってほしくないと願い、自分ひとりで行動しようとする。しかし柚子は真実を探るために、姉の杏子の知らないところで秘密裏に動き出すーーー。

 13年の月日は、この姉妹の人生を大きく変えただろう。しかし杏子と柚子は決して今の貧しい生活を苦にしているわけではない。彼女の心にあるのは復讐心だろうか。私はそれよりも強いのは家族への愛なのではないかと考える。「真希子に奪われたものをすべて取り返す」という杏子の決意はかたいが、13年前の火事の背景には、多くの謎があった。だからこそ本作は、ひとつひとつの謎を解き明かす必要がある。推理から復讐へとスムーズに移行する展開にはならないのだ。

 杏子の予想をくつがえしたのは、シングルマザーだった真希子の、ふたりの連れ子だ。名前は希一と真二、それぞれ杏子と柚子と年齢が近いが、大人になったこの兄弟は、子ども時代のふたりの個性からは想像もできない人生を生きていた。

「二階には絶対あがらないで」

 序盤で放たれた真希子の一言が、杏子の中で大きくふくらんでいく。

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