話題のミステリー小説『#真相をお話しします』がコミックに 柔らかいタッチで描かれる予想外のどんでん返し

『#真相をお話しします』漫画版の魅力

 最初に漫画の絵を見て、柔らかいタッチだと感じた。これから始まるのは、きっとあたたかい物語なのだろう。恋愛ものか、家族ものか、友情ものか……。収録されている短編のうち、最初のエピソードの終盤が近づくまで私たちは気づくことがない。それぞれのエピソードの最後には、恐ろしいどんでん返しが待っていることを。

 漫画『#真相をお話しします』の原作は、結城真一郎による同名小説(結城真一郎/新潮社)だ。本屋大賞2023にもノミネートされたため、知っている人も多いだろう。収録されている5篇の小説には、恋愛やホームドラマ、友情などさまざまな要素が盛り込まれている。しかしどれも、最後は闇に吸い込まれていくようなミステリー小説であることを実感させられる。

 筆者はこの作品をコミカライズ版から読み始めた。本作が漫画家としてのデビュー作だというもりとおるの画風は、前述したように柔らかくてやさしい。だからこそ予想外の展開により驚かされる。コミカライズ版より先に原作小説を読んだ人なら、それぞれの結末が絵になってよみがえることで、新たな衝撃を受けるかもしれない。

 LINEマンガやピッコマなど、コミックアプリで無料話を試し読みすることができる本作を、ネタバレなしで紹介したい。

 人間には表の顔と裏の顔がある。そもそもどのような状況下でも同じキャラでいる人のほうが少ないのではないだろうか。たとえば家庭では自由気ままに見える子どもが、学校では友だちに気を遣いながら過ごしているということは珍しくないし、逆に会社では有能で部下からの信頼も厚いやさしい人が、家に帰ると家族に暴力を振るっている話は、ドラマだけではなく現実でもよく聞く。

 漫画『#真相をお話しします』で最初に収録されている「ヤリモク」というエピソードの主人公が持っている顔もひとつだけではない。42歳で妻子持ちの彼は、ある日妻から相談を受ける。娘の美雪が、まだ大学生なのに高価なバッグやアクセサリーを持っているというのだ。妻は外泊や朝帰りも増えている美雪がマッチングアプリを使ってパパ活をしているのではないかと疑い、夫(主人公)は、娘のためにある行動をとる。自分自身もマッチングアプリに登録して、若い女性たちに会い、そして……。

 いったい彼の狙いは何だろうか。マッチングアプリで女の子たちに会っても、娘にパパ活をやめさせることはできないのでは。

 そんな彼の不可解な行動には、実は前半から伏線が張られている。しかしどんでん返しの結末を見るまで、私たちはそれに気づくことがない。しかもどんでん返しは二度あり、一度目のどんでん返しは読者が、二度目のどんでん返しは読者と主人公が食らってしまうのだ。 

 「ヤリモク」でこの短編集のテイストを認識した筆者は、続く「惨者面談」ではタイトルから多種多様な残酷な結末を想像せざるをえなかった。ある家庭から要望があって、家庭教師として雇われるための面談に行く主人公は、その家庭の母子の不可解な態度に違和感を抱く。私はこれまで読んできたたくさんの小説や漫画の展開を土台にして展開や結末を予想しようとするのだが、「ヤリモク」とは異なる角度で「惨者面談」は展開していき、またもやふたつのどんでん返しにつながっていく。

 現代のミステリー作品は、ゼロから創作するのが非常に困難だと聞いている。これまでの推理小説や漫画、映画で、多くの謎を解くカギは使い古されている。さらにケータイなど文明の利器がどんどんと増えて、「このシーンでこの機械を使わない理由」を読者に提示する必要もあるのだ。どんでん返しの結末も同様である。小説が読まれない時代だと言われるようになって久しいが、東野圭吾や湊かなえなど、人気作家の多くはミステリーを主戦場としていて、新人のミステリー作家が立ち入るすきもないように感じられる。

 しかし『#真相をお話しします』に収録された物語はすべて、ミステリーの創作物に慣れた読者を飽きさせないラストを用意している。終盤、日常がぐるっと回転するような感覚に陥る作品ばかりで、そのどんでん返しはミステリー兼サイコホラーと呼んでも良いのではないだろうか。前半の日常パートがあるからこそ、各エピソードの終盤までつい油断してしまうのだ。加えて「こんなことがありえるなら、私の日常も少し道をそれたら同じように崩れ去るのではないか」という恐怖も感じる。

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