白く長い帽子に、赤く垂れた長い舌……不気味すぎる『中国の死神』、「無常」とは 若手民俗学者・大谷亨に訊く、その正体

不気味すぎる中国の死神「無常」とは

山村で語り継がれるバケモノ、それも無常

――各地の無常にはそれぞれ個性があるようですが、例えばどんなバリエーションがあるんでしょうか?

大谷:基本的に無常は白無常と黒無常のペアです。それが、ある地域では白無常がノッポで黒無常がチビだったり、白無常がソロで祀られていたり、なかには白無常の顔が緑色のところもある。また、山東省某地域の無常は、靴を片方しか履いておらず、なぜかキュウリやニワトリを抱えていたりします。

――白と黒の二色にはどんな意味が込められているのでしょうか?

大谷:一般的には陰陽二元論が背景にあるといわれています。なので、陽の白無常は親しみやすく、陰の黒無常はおっかない、そんな性格の違いも民間ではよく語られますね。

――しかし、それはあくまで基本形に過ぎず、じつのところ多種多様であると。

大谷:『中国の死神』では、まさにそんな無常の多様性を注意深く比較対照することに力を注ぎました。たとえば、街のお廟で祀られる無常は神さま風のたたずまいであることが多い。でも、お廟の外で語られる無常は神さまとしてのレベルが落ちた感じで鬼に近くなる。さらに山奥の伝承では、ほとんどバケモノみたいになるんです。

――え、バケモノみたいな無常もいるんですか!?

山西省の無常。
雲南省の無常。

大谷 山村で語られる無常は、背がニョキニョキ伸びたりするんですよ。そして、そいつをまたぐことができると助かるとか、そんな伝承が語られています。

――役人的な無常とは、まったく違いますね。

大谷 まさに日本でいうところの妖怪のような存在です。たとえば日本には、「見越し入道」という、どんどん背が伸びていく妖怪がいて、「見越した」というと消えるそうなんですが、かなり似ていますよね。また、無常のあのひょろ長い帽子には、かぶると身を隠せるという力もある。これは天狗の隠れ蓑に通じます。天狗は妖怪であって神さまであるし、禍も福も招く。そんな二面性も、無常のイメージと近いものを感じます。

――では、そんな山村で語られる妖怪のような無常とお廟で祀られる神さまのような無常の関係性を大谷さんはどのように解釈しているのでしょうか?

大谷 結論からいうと、中国各地に点在する多様な無常イメージは、時間軸上で序列をつけることができると思っています。つまり、山村で語り継がれる妖怪のような無常がもっとも古い形態であり、それが徐々に神化していくような変遷過程があったのではないかと考えているわけです。『中国の死神』では、フィールドワークだけでなく、様々な文献資料も駆使しながら、今述べた仮説の論証にとりくんでいます。

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