『地獄先生ぬ~べ~』はなぜ子どもたちを魅了した? ズバ抜けていた恐怖とコメディの“バランス感覚”
1993年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されていた『地獄先生ぬ~べ~』(原作:真倉翔・作画:岡野剛)が、今年で30週年の節目を迎えた。本作は、悪霊や妖怪などのホラーに、お色気、ラブコメ、学園ものと多岐にわたる要素が加えられた独特の世界観が人気を博した。特筆したいのは、その恐怖描写の過激さにかかわらず、子どもからも高い支持を得ていたという点だ。
『地獄先生ぬ~べ~』は1996年にテレビ朝日系においてアニメ化されたが、「トイレの花子さん」など馴染みの題材を扱ったこともあり、ますます若年層からの人気を獲得する。この少し前に、子ども向け番組『ポンキッキーズ』(フジテレビ系)内で短編アニメ『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』が放送されていたことや、1990年代の第二次オカルトブームも追い風になったと考えられる。
世は空前のオカルトブーム。大人たちがよりディープなオカルトネタに夢中になる一方で、子どもたちは身近な学校という場所にまつわる怪談話で持ち切りだった。映画シリーズ『学校の怪談』も子どもたちの間で大きく話題になり、休み時間や放課後は“怖い話”で盛り上がることもしばしば。『地獄先生ぬ~べ~』を筆頭に、前述した作品群を入り口としてますますホラーや妖怪などに関心を持つ子どもが増えていった。漫画やテレビ番組、映画以外にも印象的なのは、当時の小学校の図書館で『魔女図鑑―魔女になるための11のレッスン』(初版1992年)が人気だった他、子どもをターゲットにした妖怪、心霊現象、七不思議にまつわる書籍が数多く書店にも並んでいたことだ。筆者も例に漏れず、書店や図書館で妖怪やホラー本を探し歩く幼少期を過ごした。
そのなかでも『地獄先生ぬ~べ~』はエンターテインメントとしての“バランス感覚”が突出していた。筆者を含め、本作を入り口に、楳図かずお作品や御茶漬海苔作品など、とんでもないトラウマになり得るホラー作品に手を伸ばす子どももいたが、『ぬ~べ~』が持つコメディタッチのトーンと学園ものという身近さ、そこに加わるオカルトの刺激は素晴らしいバランスだった。子どもが夢中になれる、程よく、しかし手加減のない怖さと、学校で話したくなる身近な話題、そして親近感あふれる同世代のキャラクターという点が大きな魅力だったと言えるだろう。