早乙女太一×青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』対談前編 魅惑のキャラクター“糸切美影”はいかにして生まれたのか

早乙女太一×青崎有吾『ノキドア』対談前編

 衝撃の展開で話題を集め、9月23日(土)にいよいよ最終回を迎えるオシドラサタデー『ノッキンオン・ロックドドア』(テレビ朝日系)。『トリック』『ケイゾク』『SPEC』と、バディものを次々とヒットさせてきた堤幸彦、『絶対零度』シリーズでおなじみの脚本家・浜田秀哉という盤石の布陣で待望の映像化となった本作は、気鋭のミステリー作家・青崎有吾が書き上げた同名小説を原作としている。韓国や中国でも翻訳本が発売され、webtoon版も好評配信中のベストセラー作品だ。

 『ノッキンオン・ロックドドア』は、不可能犯罪のトリック=【HOW】を解明するのが得意な御殿場倒理(松村北斗)と、動機や理由=【WHY】を読み解く専門の片無氷雨(西畑大吾)が、お互いの得意分野を活かしながら難事件を解決していく痛快ミステリー。探偵事務所の共同経営者として共に事件を解決していく相棒でありながら、最大のライバルでもある2人。いがみ合いながらも、相手の能力には絶大な信頼を置いているのも見えてくる。そんな一筋縄ではいかない彼らの関係性をより複雑かつ魅力的にしていくのが、早乙女太一演じる「糸切美影」の存在である。

 美影と倒理と氷雨、紅一点の穿地決(石橋静河)を含めて同じ春望大学の天川ゼミのメンバーだった4人。だが、ある事件によって仲の良かった彼らの運命は大きく狂ってしまう。倒理と氷雨は犯罪を暴く探偵に、穿地は犯罪者を捕らえる刑事に、そして美影は犯罪を作る犯罪コンサルタントになった。3人とは相容れない道へと歩み出し、行方をくらませたはずの美影。いくつもの難事件を解明しながらも、まだ解けていない一番身近な4人に関する謎が本作の大きな見どころだ。

 リアルサウンドブックでは、このように幾重にも謎が仕込まれた魅惑のミステリー小説『ノッキンオン・ロックドドア』を書き上げた青崎有吾と、ドラマ版で物語の鍵を握る糸切美影を好演してきた早乙女太一の対談が実現。前編では、お互いの印象から美影と早乙女の共通点、そして原作とドラマを行き来して楽しむポイントについて語り合ってもらった。(佐藤結衣)

【記事の最後に、早乙女太一さんのサイン入りチェキプレゼントあり】

ドライだけど根っこでは深く繋がっている、そんな絆を描きたくて

――実は1991年生まれと同い年のおふたり。今回初めて対面されますが、お互いにどんな印象をお持ちでしたか?

青崎有吾(以下、青崎):僕は『HiGH&LOW』シリーズが大好きでして……半年ぐらいTwitter(現:X)で『HiGH&LOW』の話しかしてなかった時期があったほど、もうめちゃくちゃにファンなので、今目の前に「劉がいらっしゃるなー」って、そういう感動が……正直アガっています(笑)。早乙女さんはアクションをされていますけど、激しい演技をされなくてもただそこに立っているだけで「こ、こいつはただ者じゃない」みたいなオーラが出せる、そんな俳優さんだなって思っていました。

早乙女太一(以下、早乙女):わー、ありがとうございます。嬉しいです。僕は『ノッキンオン・ロックドドア』の他にも、青崎先生の、あの、『アンファル』……? すみません。略し方が、ちょっとわかってなくて……。

青崎:『アンデッドガール・マーダーファルス』(※アニメ化も話題のダークファンタジー小説)のことですね。

早乙女:こちらの作品も拝見していて(笑)。トリックのところはもちろんなんですけど、物語に出てくる古典落語だったり、音楽だったり……本当に知識量がすごいなと思っていました。『ノッキンオン・ロックドドア』の原作も同じ方が書かれていると知って、とても驚いたんです。

青崎:知識が豊富なわけじゃないので、その場その場で必死に調べながら書いています。でも落語は元々好きだったっていうのはありますね。『パタリロ!』っていう漫画にハマっていた時期があって、落語ネタがいっぱい出てきたので、そこから好きになったんだと思います。大学の卒論も落語に関するものでしたね。

早乙女:『アンファル』もそうなのですが、『ノキドア』は二人でひとつというか、メインキャラクターが役割をそれぞれ分担しているじゃないですか。 今回でいったら「不可能」(HOW)と「不可解」(WHY)とそうやって領域を分けて事件に挑む探偵コンビって、少なくとも僕はこれまで見たことがなかったので、すごく面白いなと思いました。

青崎:ありがとうございます。既存作にも出てこないわけじゃないんですが、たしかに珍しいコンビかもしれません。多分、僕は分業制が好きなんです。ある意味ビジネス的に「ここから先は、もうキミの領域だから全部任せたよ」みたいな、ドライな信頼関係が好みで。僕が読者として作品に触れるときにも、そういう関係性の登場人物たちに魅力を感じてしまうんですよね。

早乙女:その距離感って気持ちいいですよね。ベッタリじゃないというか。

青崎:「俺たち仲間だよな!」という熱い感じじゃなくて、契約とか利害関係で繋がっていて、 でも根っこの部分では普通の絆より深いものがある、みたいな、隠れた信頼関係が好きなんだと思います。

早乙女太一と美影の共通点は、人との距離感?

――早乙女さんは原作の中で、一番好きなキャラクターは?

早乙女:それはもう、圧倒的に美影ですね。

青崎:これは他のキャラとは言えないですよね(笑)。どんなところがお好きですか?

早乙女:うーん、共感するところとかはあんまりないんですけど(笑)。でも、強いていうなら、人との距離感ですかね。ドラマ化に際していただいた美影の資料にも、「なんでスポーツ観戦でみんなが感動しているのかわからない。自分には関係ないし」というような内容が書いてあったんですけど、そこはちょっと共感できるかなって。あんまり人のことで熱くならないというか、実際に試合を観れば気持ちが高ぶるとは思うんですけど、そんなに興味が向く方ではないので。

青崎:なるほど、演技に対してもそうですか? ちょっと俯瞰的というか、自分との距離を取りながらカメレオン的に変えていくというか。

早乙女:そうですね。誤解を恐れずいうと、「とにかく言われた通りにやる」というスタンスです。もちろん、ときには「これってどうなんだ?」と思う場面もありますが、それでも一旦は言われたことをやりますね。その上で相談します。自分が思うキャラクター像の軸というものはズラさないけれど、表現に関しては自分が想定していないルートを通ったら、別の道が見つかるときもあるんで。

青崎:おーーー! そうして相手の要望に応じて自分を変えられるところは、美影に通じる部分かもしれませんね。

――先生は、特に思い入れがあるキャラクターはいらっしゃいますか?

青崎:僕も「美影です」と言わざるを得ない流れですけど(笑)。あえて美影以外だとすると、原作を書いているときは女性刑事の穿地さんがお気に入りでしたね。2巻で穿地さんが主役になるスピンオフ的な話も書いたくらい。ただドラマで見ると、やっぱり天川教授(※4人が所属していた犯罪社会学ゼミの教授)という人の存在感がすごいなって。

早乙女:たしかに!

青崎:あの人、ちょっと特殊なポジションの人で。倒理と氷雨が必死に解いていく謎も、天川さんに概要を聞かせたらきっと10秒ぐらいで解けちゃうんですよね。ドラマの4,5話で描かれた女子高生失踪事件も、原作では倒理が天川教授のところに相談に行って話をしたら、即座に「見落としてるところがあるね」ってヒントをくれて。それで、ようやく倒理が真相に気づく――という流れでした。主人公たちとは別次元の最強キャラなんですが、そういう人がいる作品って安心感があるよな、と。

早乙女:僕が探偵ものを好きな理由って、もちろんミステリーとかトリックもありきなんですけど、変人が好きなんですよね。探偵といえば変人っていうくらい。

青崎:たしかに、代名詞みたいなものですよね(笑)。

早乙女:だから『ノキドア』もいい意味で変人ばっかりだし、すごく惹かれるというか、魅力のある人たちが多いですよね。原作もぜひ読んでいただいて、ドラマ版で強調されたり、変化しているところを見ていただけるとより面白いと思うのですが、キャラクターの個性や魅力はどちらもしっかり感じられて。ちなみに他の作品でいうと、ドラマ版の『シャーロック』がすごく好きでした。

青崎:あー! そもそも『ノキドア』って『シャーロック』から影響受けている部分も大きいんですよ。現代ナイズされたホームズの変人っぷりが楽しかったですよね。早乙女さんは、謎を解く側の役を演じられたことって……?

早乙女:それこそ『シャーロック・ホームズ』を朗読劇でやったことがあります。1日だけ、2回公演で。僕がシャーロックで、窪田正孝くんがワトソンで。演目はシリーズの第1作『緋色の研究』でした。

青崎:あの作品を朗読で!?

早乙女:はい。でも、登場人物を2人で演じ分けたので、実際には1人何役になったんだろう(笑)。すごく楽しかったですね。

青崎:うわー、見てみたかったです。いつか、ドラマでも探偵役を演じてもらいたいです。

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