早乙女太一×青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』対談前編 魅惑のキャラクター“糸切美影”はいかにして生まれたのか
原作とドラマを行き来して楽しめる『ノキドア』
――小説の実写ドラマ化は賛否が分かれやすいところだと思いますが、原作者の立場として今回のドラマ化はどのようなお気持ちでしたか?
青崎:正直、ドラマに関しては美影周りの設定が1番不安な部分ではあったんですよね。原作だと美影はチープ・トリックというロックバンドの歌詞を現場に残していく……という、ちょっとキザなことをするんですけど、権利関係などを考えるとドラマで再現するのは難しいだろうと。
ーードラマ版では落語の一節にうまく変更されていて、小説版と見比べる楽しみが生まれました。
青崎:そうなんです。先ほどお話した通り、僕は落語好きなので、むしろ嬉しいなと思ったんですよ。でもやはり、ドラマ化するにあたってオリジナル設定が加わると、原作ファンの方にとっては違和感になることもあるのでは……とも思っていて、結局そうした変更点は、美影役がどなたになるかで大きく説得力が変わるだろうと。そんなさなかに美影役が早乙女さんだとお聞きし、自分の中で「あ、早乙女さんなら」とストンと腑に落ちた感じがあって、不安もなくなりました。
――原作の方では、氷雨と美影が再会するのは古本屋さんでしたが。そこも演芸場になっていましたね。
青崎:そうですね。僕としては逆に美影の可愛らしさというか、あんな雰囲気をまといながらも落語好きという意外性みたいなものが出て、いい改変だなと思いました。
――早乙女さんが演じる美影はいかがですか?
青崎:あの演芸場で姿を現したときに、自分のなかの美影のイメージに限りなく近い形になっているなと思いましたね。会話の中で「君は相変わらず倒理に殺されたがってるね」っていう、物語内でも重要なセリフが出るんですけど。それを、ためてためて……という感じではなくて、さりげなくサラッとこぼすような喋り方をしてくださって。「そうそう、美影ってそういうヤツだよな!」と。さっきも言いましたけど、早乙女さんの佇まいからは「こいつはただ者じゃない」っていう風格が出ていますよね。 ともすれば、演芸場で話すなんて少し間抜けになってもおかしくない状況なのに、ちゃんとシリアスな雰囲気が出ていて、いいシーンになっていました。
早乙女:よかったです! あのセリフだけではないんですけど、僕の中で美影って結構独特な言葉選びをする人だなと思っていて。いかに自然に、でも際立つ感じにするかということは、ずっとどの言葉でも意識していました。
青崎:たしかに美影って、あんまりストレートな言動をしないタイプですね。
――美影というキャラクターを生み出すのに、どのようなことを意識されていましたか?
青崎:まずはメインキャラクターである倒理と氷雨とのギャップというか、対称性みたいなものを考えました。倒理と氷雨、あとは穿地さんも、ごちゃごちゃした部屋で暮らしていたり、「中古車でも買おうか」と相談してたり、割と世間ずれしながら生きてる人たちだと思うんです。一方で、美影というのはもう少し丁寧な暮らしをしてるんですよね。服にもこだわっていて、規則正しい生活をして、たぶん家にはお掃除ロボットがあって……みたいな。ほかの3人とはまた違う浮世離れした感じで、マイルールみたいなものをいっぱい持ってる人なんだろうなって。
また内面の部分で言うと、美影はすごく頭がいいんですよね。過去編で明かされていくと思いますけど、元々同じゼミだった4人の中で1番優等生で。でも、ある事件が起きてレールから外れてしまう。それもいわゆる「闇落ち」みたいな形ではなく、彼の中ではちょっと自分の進むルートが変わっただけっていう感じで。悪意があるような、ないような……自分もあえてちゃんと決めずに書いていたので、その辺りをどう早乙女さんが解釈されて、演じられるのかなっていう部分にワクワクしていました。
――今回は演じる上でどのようなことを意識されたのでしょうか?
早乙女:今回、僕も初めての経験だったんですけど、衣装合わせの段階で美影がどういう生い立ちをしてきたかみたいな資料を頂いて。
青崎:あ、僕も噂で聞きました。脚本家さんが、それぞれのキャラクターの履歴書というか、出身とか生い立ちとかをまとめた資料を尋常じゃない量で作ってくださったみたいですね。
早乙女:そうなんです。僕、そんなにまとめられた資料をいただくのが初めてで。これまでの作品でも、衣装合わせのときになんとなく「どういう生活をしてきたんですかね」ってキャラクターの背景について会話をしながら、想像を膨らませていく作業はあったんですけど。それがもうすでに出来上がっていたんで(笑)。それこそ、なぜ美影が落語を見に行くのかっていう理由だったり……。
青崎:え!? そこまで決まっているんですか?
早乙女:ざっくり言うと、「人はどうしゃべったら、どう感じるのか」ということを落語を見て考えたりしている……みたいな。
青崎:あ~なるほど! いや、すごい。僕のイメージとピッタリ合っていますね。そういうヤツだよなぁ、美影って。
早乙女:一見ふわふわしていて、穏やかな話し口調であったりするから、なんか近いようにも感じるけど、絶対的に人との距離感があって。というのも、血が繋がってない人に育てられていて、その距離感がむしろ心地よく感じる人だったという過去があって。だから「自分には心がない」っていうセリフがあるんですけど。美影には自分なりの距離感があって、パーソナルスペースがあって……というイメージを最初にいただいていたので、それに沿ってやれたらいいなというところが大きかったですね。
ーー原作を読んで”答え合わせ”をしたくなりますね。
青崎:いま「落語を聞き始めた理由」を聞いて、感動しちゃいました。美影はたぶんAI的なところがあるというか、自我があんまりなくて。周りに合わせて自分を作っていったみたいな人なんですよね。だからこそ悪いこともそんなに気にせずにできるし、どういう風にでも自分を作り変えられる。でも、逆に言うと自分自身ともちょっと距離を置いちゃってるから、自分の心とも向き合えてないのかな、みたいな部分もあるかもしれない。いや、すごいな! 堤監督も脚本家の浜田さんも。
――原作者の目線でも感動するくらい、ドラマから原作へ、または原作からドラマへと、相乗的に楽しみが広がる作品だということですね。
早乙女:どちらから入っても、絶対に面白いですね。
青崎:原作は少しハードボイルド小説みたいなものを意識しながら書いてるので、わざと心情が書かれていなかったり、他の描写で代替してたりするんですよね。ドラマから入った方は、そういう部分に注目してもらえると面白いかもしれないし、他のハードボイルド作品の入り口にもなれば嬉しいです。あと単純に、ドラマでは6エピソードくらいしかやってないんですが、原作はその2倍近くエピソードがあるので、脳内でドラマを再生してもらいながら読んでほしいですね。
【近日公開の後編では、同い年の二人のパーソナリティにより深く迫ります!】
■オシドラサタデー「ノッキンオン・ロックドドア」
毎週土曜よる11:00~ テレビ朝日系
松村北斗(SixTONES) 西畑大吾(なにわ男子)
石橋静河 畑芽育 駒木根隆介・早乙女太一・角田晃広 渡部篤郎 ほか
▼見逃し配信はこちらから
https://tver.jp/series/srlxv6mww1
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