2020年を生きた少年少女たちへーー辻村深月『この夏の星を見る』が描いたコロナ禍の繋がり

辻村深月『この夏の星を見る』を読む

 しかし少年少女たちは、コロナに打ちのめされるだけの存在ではない。亜紗たちの天文部がやっていた、お手製の望遠鏡で星を捜す〝スターキャッチコンテスト〟を、ちょっとしたことで知り合ったひばり森中学校の理科部と一緒にやろうとする。さらに亜紗たちに頼のまれた綿引先生が、五島天文台の才津に声をかけたことから、円華・武藤・小山の3人が、天文台チームとして参加する。その後、御崎台高校の物理部と、武藤や小山と同じ留学生だったが、東京に戻った輿凌士も参加する。オンライン会議で集まった参加者が、しだいに打ち解けて、スターキャッチコンテストに向かっていく姿が気持ちいい。コロナはたしかに社会を変え、人々を分断した。しかし、広い夜空を見上げ、ひとつの目的に団結したとき、少年少女は強い繋がりを得ることができるのである。

 さて、こうした登場人物の高揚を保ったまま、スターキャッチコンテストが始まるのだが、意外なほどあっさり終わってしまう。だがそこに作者の企みがあった。予想外の事実で読者を驚かせながら、少年少女たちの繋がりを、さらに拡大していくのだ。

 社会に抑圧されることもある。親に従わざるを得ないこともある。だけどいつだって、少年少女たちは夜空の星のように輝きながら前に進むことができるのだ。楽しみを見つけることができるのだ。自分が生きている〝今〟を、かけがえのないものにしてほしい。作者は本書で、そのことを伝えたかったのではなかろうか。

 なお少年少女だけでなく、綿引先生や才津館長を始め、理科部顧問の森村先生、吹奏楽部顧問の浦川先生、物理部顧問の市野先生など、少年少女を見守る大人たちも、いい味を出している。彼らのキャラクターは理想的すぎるかもしれないが、大人はそうであってほしいという、作者の願いが込められているのだろう。だから年代を問わず、本書を読んでほしい。2020年を体験した人ならば、心の中の大切な場所に置いておきたい一冊になるはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる