『恐之本』『僕が死ぬだけの百物語』『長い夢』……夏休みに読んでヒンヤリしたいホラー漫画3選

『長い夢』伊藤潤二

 最後に紹介するのは、今年で画業35周年を迎えたホラー漫画界のレジェンド・伊藤潤二先生の作品。正直、『富江』をはじめ『うずまき』『双一』シリーズなど、伊藤潤二先生による最恐ホラーを挙げたらキリがないが、やっぱり『長い夢』は初めて読んだあの日からずっと忘れられない。内容を思い出すたびに、あまりのおぞましさ、侵食されていくような恐怖に肌が粟立つ。

 夢を見ている時間が日に日に長くなっていく.........そんな“長い夢”に頭を悩ませる男性の恐怖を描いた本作。現実では一晩しか経っていないのに、夢の中で体験する時間は1週間、1年、10年と日に日に伸びていく。しかも、夢の中ではとあるジャングルで兵士として戦っていたり、近未来的空間で何かから追われているなど、見事に全部が悪夢。

 曖昧になっていく夢と現実の境目。それによって、精神はもちろん身体にも異常をきたし、まるで何かに取り憑かれたかのように姿を変えていく様子はとにかく気味が悪い。また、“長い夢”という逃げ場のない恐怖空間は妙な圧迫感があり、読み進めていくたびに息の詰まるような何ともいえない怖さに襲われる。

 実は今回紹介した3作品の中でも、『長い夢』は唯一の1話読み切り形式の短編だが、“長い夢”の正体とは? そして男性を救う方法など、短編とは思えないほどの緻密なストーリー展開で、怪異の発症から解明までを描き切る。その過程で見えてくる、SF的展開、そして人間のエゴ........考察次第では恐怖心が一層高まる、至極のホラーとなっている。

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