【推しの子】赤坂アカはなぜ横槍メンゴに作画を依頼した? 『クズの本懐』に見る黄金タッグ結成の必然

 芸能界を舞台に、サスペンスやファンタジー要素を取り入れて大ヒットを記録している漫画『【推しの子】』。本作は、原作を務める赤坂アカ氏と、作画を担当する横槍メンゴ氏という、二人のクリエイターによって作られている。

 二人にはもともと交流があり、お互いの作品のファンで、『【推しの子】』の制作に際して赤坂氏が横槍氏に「千年に一度のアイドルって描ける?」と声をかけた……というエピソードはファンには知られているが、黄金タッグ結成のポイントはどこにあったのか。

 2021年7月にライブドアニュースに掲載された鼎談記事「漫画『【推しの子】』赤坂アカ×横槍メンゴ×担当編集・サカイ(前編)」では、横槍氏が「ビッグコミックスピリッツ」で発表した読み切り作品『かわいい』(2019年)がオファーの決め手になったことが明かされている。同作はジュニアアイドルとして活躍する中学生の心の闇を描いた物語で、確かに『【推しの子】』に通じる要素が大きい。

 しかしさかのぼると、「月刊ビッグガンガン」で2012年~2018年に連載された横槍氏の代表作『クズの本懐』に、その原型を見ることができる。

 『クズの本懐』は、叶わぬ恋を描いた作品であり、同級生との価値観の相違や自身の恋愛観に葛藤する高校生のネガティブな心情、泥沼の関係が深く掘り下げられている。作画は美しく可愛らしいが、決してキラキラした純粋な描写だけでなく、人のダークな面がしっかり表現されており、裏を返すと、タブーに踏み込みながらライトなファンも魅了していく作品でもある。このギャップはまさに、『【推しの子】』でも多くのファンを獲得する要素になった。

 赤坂氏自身、代表作といえるラブコメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』では作画も担当しており、可愛らしいキャラクターを描くことはお手のものだ。しかし、『クズの本懐』でも見られる横槍氏の作画には、また違った魅力がある。

 2022年8月にニコニコニュースにて掲載された対談記事「【推しの子】制作秘話を作者ふたりにネタバレ全開で語ってもらった! 神回と評される”エゴサ回”で作品の方向性が決まった?」で赤坂氏は、横槍氏の絵には「針が仕込まれている」と表現。自身のキャラクターデザインや絵柄を「媚び寄り」だと語り、横槍氏の絵には「女性の強さっていうか、媚びないかっこよさが絶対に入っているんです」評価していた。赤坂氏の絵に対する「媚び寄り」という自己評価が正しければ、本人の作画では、星野アイの“アイドルとしての異質さ”は描けなかったのかもしれない。

 センシティブな内容、ダークな側面を多分に含みながら、それでも愛らしくキラキラしたキャラクターに魅了されるーー『クズの本懐』を読めば、『【推しの子】』につながる作画の魅力を感じることができる。『【推しの子】』原作も、いよいよ最終章。内容もさらにハードになっていくことが予想されるなかで、赤坂氏と横槍氏のタッグだからこそ紡ぎ出せる物語に、一層の期待を寄せたい。

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