異例ヒットの『中世への旅』全国販売へ 書店員の熱意が出版社を動かすという好例に
今からなんと41年前、1982年に発売された『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ・著/平尾浩三・訳、白水社刊)が異例の盛り上がりだ。神保町に本店をおく大型書店「書泉グランデ」のTwitterによれば、3月から独占販売した『中世への旅 騎士と城』のほか、『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』が重版されることが決まった。
41年前の、しかも専門的な本の重版は異例のことで、ネット民がざわつく事態になっている。しかも、これまでは事実上書泉の特選販売だったが、重版に伴い全国の書店で購入可能になると白水社が発表した。これは書泉側の意向によるもので、書泉の男気溢れる対応にも賞賛の声が上がっている。
『中世への旅 騎士と城』は中世ヨーロッパに関する著述がなされた本。1980年代に登場したファンタジー系のRPGや小説に大きな影響を与えたとされ、歴史的な価値も高い一冊だ。
この『中世への旅 騎士と城』が注目されるに至った経緯は、「書泉」の書店員の熱意があった。内容が優れた本なのに再版されないことを嘆いていた書店員が、白水社と交渉、再版分をすべて引き取ると約束した。これは書店にとっては大いなる冒険である。在庫を抱えるリスクがあるし、売れ筋の小説や漫画でもない書籍だ。異例の対応だったが、「書泉」はブックタワーを築くなどして気合の入った宣伝を実施。見事、完売に成功した。
書泉はご存じの通り、神保町有数のマニアックな書店のひとつで、ビルのフロアが鉄道、宗教など趣味や専門性の高い分野に特化した構成になっている。そうした書店ゆえに可能になったことといえるが、とはいえ、専門書を売りきるのは容易なことではなく快挙といえるし、書店の底力を見せつけたケースとなった。
書店はかつて、インフルエンサー的な存在であった。近年、ネットの影響でその役割は薄れつつあるように思えていたが、書店員の目利きが健在であることの証明にもなった。実際、都心の大型書店にはそういった目利きが多く、書店員のコメントが小説の帯に掲載されたり、POPに使用される例も少なくない。こうした書店と出版社の連携でベストセラーが生まれていけば、出版界の活性化につながりそうだ。
特に、『中世への旅 騎士と城』のような専門書が、書店員の熱意によって復刻につながり、さらにシリーズ全体が重版となったのは奇跡といえるだろう。一度は埋もれてしまった本が、現代のトレンドと合致するなどして復刻に結び付く。一般書や専門書には、まだまだきっと誰かが発掘し、発信していけばヒットにつながるケースがまだまだ眠っているに違いない。