コアミックス編集者が高校生に「秘伝のノウハウ」を伝授 熊本県立高森高校「マンガ学科」の狙い

高森高校「マンガ学科」の狙い

コアミックスのノウハウを授業に凝縮

――具体的にどんな授業、指導を行っているのでしょうか。

持田:マンガ学科では、専門課程の3分の1にあたる「マンガ制作」の授業を弊社が担当しています。1年生は週2コマですね。一学期はジャンプ作家だった漫画家の富沢順先生、そして編集者の堀江と持田が交代で授業を行っています。そのほか、美術学科の教員である担任の先生たちが「素描・構成」の授業を行い、画力を上げるための基本的なデッサンや背景のパースのとり方などから教えており、卒業までに美大の受験もできる実力をつける専門的なカリキュラムになっています。

――かなり本格的な授業ですね。

持田:部活動の「マンガ部」も、熊本コアミックスの編集者が毎日交代で活動を見ています。生徒たちが制作した絵コンテのネーム、キャラ表、原稿などの進行状況を常にチェックし、レベルが高い作品は東京の編集部と共有する仕組みにしています。始まったばかりなので、まだみんな基本を学んでいる段階ですが、この先は実力に応じて生徒に担当編集がつく体制を準備しています。

――直接、プロの編集者から指導を受けられる学校は他にないと思います。大学や専門学校でも講師に現役の編集者がいる例は稀ですし、出張編集部のような形で見てもらい、担当がつくパターンが普通ですからね。いきなり編集者とパイプが持てるのは相当強いと思います。

持田:それに、弊社には元ジャンプ編集長だった堀江信彦や人気漫画家の北条司、原哲夫たちから伝授されたマンガ制作のための門外不出のテキストがあります。その内容から基本的なものを抜粋して、マンガ学科のテキストを作っているんですよ。実際の授業ではそれに加えてさまざまな資料や課題を配っています。漫画出版社の編集部が持つノウハウですから、大学や専門学校で学ぶ内容よりも実践的なのではと自負しています。

高森高校マンガ学科のテキスト

――それは羨ましいですね。「週刊少年ジャンプ」を約653万部に押し上げた、カリスマ編集者の堀江さんのノウハウですから、他社の編集さんや漫画家志望者も見てみたい人が多いのではないでしょうか。

持田:堀江本人が月に1回教壇に立って行われる授業は、私たち編集者も未だに勉強になるほど内容が深く、目からウロコが落ちることがたくさんあるんですよ。生徒たちはまだその価値を理解できてないかもしれませんが(笑)。二学期からはゼノンの連載陣にも手を挙げてもらい、高校生と年齢が近い漫画家から話が聞ける特別講義も設けていきたいと思います。また、ヒット漫画を描くためには、漫画以外のエンタメ作品から多くのものを吸収しなければいけませんので、若いうちから名作と呼ばれる映画、小説、舞台の鑑賞の機会を数多く設け、世界に通用するキャラづくりや演出についてディスカッションをしていきます。

教壇に立つ堀江信彦氏

――ここまで徹底して指導を行っているなら、高校生のうちにデビューする生徒が出てきそうです。

持田:才能ある生徒は、在学中にデビューさせるのが目標です。当社は漫画雑誌やWEBメディアなど出口をもっていますので、レベルに達すればすぐに作品を掲載できるのが強みです。そして、読者アンケートのデータをもとに、良かった点、悪かった点を考察して次の作品に活かしていけるわけです。業界の未来を担う漫画家やアーティストが生まれ続け、成長していく仕組みを、ここ高森町でも構築したいと思っています。

熊本から次代を担う漫画家を輩出する

――コアミックスにとっても、マンガ学科のメリットは大きそうですね。

持田:新人漫画家の育成はもちろんですが、それに向き合う漫画編集者の育成の場にもなっていくと思います。弊社は漫画家の触媒となる編集者の存在を最重要視しており、編集部の規模を超える人数の編集者が在籍しています。マンガ学科でも若い編集者が高校生と向き合うことで、一緒に成長してスキルをあげていきヒットを飛ばしてほしいですね。

――そして、熊本の環境も漫画家にとってプラスに働く部分が多いと思います。

持田:熊本、特に阿蘇の高森町は漫画家やアーティストにとって最高の環境ですよ。大自然に囲まれ、水や食も豊か、神話や伝統も感じられます。海外漫画家たちは、高森にはジブリ作品に出てくるような風景があり、妖怪が出てきそうな神聖な雰囲気があって、しかも10ギガの通信環境も整っている、なんて天国なんだ!と絶賛しています。熊本出身の漫画家の先生方の作品を改めて読んでみると、熊本という環境で幼少期を過ごしたからこそ、創造力や妄想力を膨らませたスケールの大きい作品を描けるんだなと思ったりします。

――熊本から次代の漫画界を担う、クリエイターが生まれるのが楽しみです。

持田:高森高校マンガ学科で得る学びと経験は、必ず生徒たちの人生を豊かにし、クリエイティブな創作活動にも活きてくると信じています。そうさせなければならない責任感もひしひしと感じているので、私たちは若者たちにチャンスを与えながら、彼ら彼女らの才能が開花するよう全力でサポートしていきたいと考えています。

■関連情報
阿蘇の高森町にあるコアミックスの漫画家育成施設
アーティストビレッジ阿蘇096区
https://aso096k.jp/top/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「出版キーパーソン」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる