【漫画】もし献血のように“寿命”を他人に与えられたら……SNS漫画『けんたま』が描くひとつの死生観

希死念慮がある時に楽しく現実逃避ができる作品に

――まずなぜ『けんたま』を制作しようと思ったのでしょうか?

白湯:父方の祖父母、父親と私の家族が3人、自ら命を経っており、私自身も希死念慮を抱くことがあります。そこから「“献血みたいに魂を必要な人に送るシステム”があったらいいなあ」と空想して、『けんたま』を描きました。

――「魂はランダムに送られる」、「施設内での若者と老人の接触を避けるようにする」、「魂をもらった人からの感謝のビデオメッセージ」など、設定がとても細かく作りこまれていました。

白湯:設定については、「本当に描きたいこと以外を描かなくて済むようにしよう」という感覚で作り上げました。例えば、もし魂の送り先を選べたら、その選択肢に対する葛藤や理由を描かなくてはならず、横道に逸れてしまうと思いました。また、若者と老人の接触を避ける、感謝のビデオメッセージなどは、「けんたまランドが実在したらありそうだなあ」という理由で加えています。若者と老人では動機が大きく異なる場合が多いと思いますので、一緒にいたら空気も気まずいでしょうし。特にビデオメッセージは、物語の終盤をショートカットする演出に使えたので、思いついて良かった設定だと思います。

――たま子やホクロくんなどはどのように作り上げましたか?

白湯:最初はホクロくんが主人公だったのですが、上手くいかなかったので一般的な感覚に近いたま子さんに変更しました。魂を受け取る場面を描きたかったので、「自分の子供が対象だったらほぼ間違いなく受け取るだろう」と考え、たま子さんは子持ちのシングルマザーにしました。

――「けんたま」を利用する人たちが何人も登場しましたが、その動機はどのように考えたのですか?

白湯:実際に安楽死を実行された人のニュースを読んで参考にしたり、高齢者は自分で空想したり、若者はちょっと意地悪な気持ちで動機を作りました。

――非常にセンシティブで重たいテーマですが、可愛らしいデザインで中和され、読者は客観的な目線を保って、最後まで考えながら読むことができると思います。

白湯:私自身、統合失調症を患ってから精密な作画が負荷となり「心と体に優しい絵柄で作品を描こう」と思って今の絵柄になりました。また、キャラクターデザインは、シンプルな線でも誰が誰かの見分けがつきやすくなることに気を付けています。これからも描く時に心と体に優しい負荷で、見やすく読みやすい作画になるように描いていきたいです。

――SNSでは様々な感想が寄せられていましたが、この反響についてはどのように感じていますか?

白湯:「闇が深い」や「私もけんたましたい」など、たくさんの感想をいただきました。また「けんたまシステムという絵空事で自殺の是非を問うことを止めている、それが余計に自殺の是非について考えるきっかけになっている」「自殺の是非を問うのではなく権利として描いていることが珍しい」といった私自身でも気付かなかった視点の感想もあり、ハッとさせられることも多かったです。

――特に印象に残っている声はありましたか?

白湯:けんたましたい派の読者さんから「もしけんたまランドがあったら自分はどうするか空想して午前中が終わった。考えることで楽しくなってきた」という感想をもらった際に「この作品の目指すところはここだ!」という手応えを感じました。「希死念慮がある時に楽しく現実逃避ができる、そんな作品になっていたら」と思いました。

――最後に今後の漫画制作の目標など教えてください。

白湯:持病を明かしていない商業名義のほうでは、今はモチベーションがあまりないため、“白湯”として本当に自分が描きたいものだけを描いていきたいです。今は「『私はいつだって絶望しているし今すぐにでも死にたい』と思っている人に届く漫画を描けたらいいなあ」と思っています。

 漫画を描いたら私のTwitterアカウントに随時アップいていくので、チェックしてもらえると嬉しいです。また、前作でもある統合失調症入院エッセイ漫画『気が狂っても人生は続く』がkindleインディーズで無料配布していますので、こちらもよろしくお願いします。

白湯さんのTwitterアカウント:https://twitter.com/sayu20220626
『気が狂っても人生は続く』https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0BZMFV9PT/ref=dbs_a_def_rwt_hsch_vapi_tkin_p1_i1

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「著者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる