手塚治虫、謎多き『ミッドナイト』の新資料発見 未発表をまとめた作品集への期待
漫画の神様・手塚治虫が生涯に描いた原稿は約15万枚といわれる。なぜ「約」がつき、「いわれる」という曖昧な表現になるのかというと、手塚が実際に描いた原稿の枚数はハッキリとはわからないためなのだ。
講談社から発行されている『手塚治虫漫画全集』の総ページ数を数えればいいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。ところがそう甘くないのだ。『手塚治虫漫画全集』は手塚治虫の主要な作品をまとめた偉大なシリーズだが、未収録の作品がかなり存在するのだ。しかも、公式の作品リストにも載っていない、今まで知られていなかった作品が突然、古書市場などで発見されたりもするのである。
そして、手塚はしょっちゅう原稿を描き直すのである。セリフの書き換えは日常茶飯事で、コマを描き直したり、ページ全部を描き直したりはごくごく普通に行われている。その傾向が強いのは代表作『火の鳥』で、乱世編、生命編、太陽編などは雑誌と単行本で途中の展開やオチがまったく違っている。しかも乱世編は『手塚治虫漫画全集』と角川書店から出た単行本によっても展開が違うのである。
このように、手塚は常に新しいページを加筆したり削除したりしているので、原稿の枚数が誰にも把握できないほど凄まじい枚数になっているというわけだ。
さて、5月4日、共同通信社の報道によると、手塚が1986~87年に「週刊少年チャンピオン」で連載した『ミッドナイト』の単行本未収録のエピソードをまとめた作品集が6月16日に立東舎から刊行されることがわかった。作品集のタイトルは『ミッドナイト ロストエピソード』となる。
『ミッドナイト』は手塚が週刊少年漫画雑誌で連載した最後期の作品のひとつで、タクシードライバーが主人公。しばしタクシードライバー版ブラック・ジャックといわれることもあるが、主人公の見た目がどこかブラック・ジャックにそっくりで、しかも本編にもブラック・ジャックが重要なキャラクターとして登場する。
この作品の原型になったのが、『ドライブラー』という作品である。『ドライブラー』は熱心な手塚ファンの間では存在は知られていたが、今回、そのカラー原稿や鉛筆で描かれたスケッチなど計6点の新資料が初公開されるのだという。手塚プロダクションの資料室にあった袋に入っていたものと、共同通信社が報じている。
なお、『ミッドナイト』もいろいろと謎の多い作品で、実は『手塚治虫漫画全集』には最終回が収録されなかった。のちに秋田書店の文庫版で公開されたときは大きな話題になった。『ミッドナイト ロストエピソード』は、手塚の晩年の創作活動の一端を知る貴重な資料になりそうだ。