「ヤクザも人間なので、承認欲求がある」 暴力団取材のエキスパート・鈴木智彦インタビュー

ヤクザジャーナリストが語るリアル

暴力団に思想なんてない

――藤井道人監督の映画『ヤクザと家族 The Family』は、ヤクザとその家族たちの悲惨な人生にスポットを当てた映画でした。著書にも「ヤクザの親分はこどもの運動会にも行けない」というエピソードがありましたが、ヤクザの生き難さについてはどう考えていますか。

鈴木:もちろん生き難いヤクザもいると思いますが、ヤクザという看板を使って生きているのだから仕方ない。さっさとその看板を下ろせばいい。暴力団員は抗争をしなくなりましたが、感情が暴発すればあり得ないほど捨て鉢となり、他人を殺す怖さがある。すべての暴力団は、暴力団による悪逆非道な事件の恐怖イメージを集積させ、看板を恐怖で虚飾して、他人の支配に使用しています。こんな看板を許容し使わせてはいけない。ヤクザは壊滅せねばなりません。

 地方都市もヤクザは地縁・血縁の中で生きているので、周囲に正体がバレていますし、気にせず運動会にも来ます。たとえ抗争中でも関係ないです。そもそも俺は、人の人権を踏みにじるのがヤクザだと思っていますので、ヤクザが自分の人権を尊重しろなんて主張するのはブラックジョークにしか思えない。『ヤクザと憲法』の組長は「武器としての人権」と言っていました。それなら理解できます。

――ヤクザは右翼団体と近いイメージがありますが、左翼的な側面もある?

鈴木:学生運動の時代、彼らは同じ刑務所に入っていましたからね。ヤクザはケンカをしている奴しか認めないメンタリティですから、取り調べに屈しない左翼学生の姿を見て感動して仲間になるという話も普通にあったみたいです。北海道大学の運動家・唐牛健太郎が三代目山口組組長・田岡一雄から金銭的な援助を受けていた、というエピソードも有名ですね。

――ヤクザが左翼的な思想に影響されるということは考えられますか?

鈴木:トラブルがあったら暴力で解決するという人達ですから、暴力団に思想なんてありません。彼らは単純に武力闘争や警察に対し、音を上げない姿に共感しただけです。「暴力団に何かの思想がある」という言説は誤りです。いってみればマスコミが作り上げた幻想です。俺も「もしかしたらヤクザのなかに世間にはない美学や思想があるかもしれない」と思って、30年間探しましたが徒労でした。あるのは金、暴力、拳銃の弾といった即物的なものだけ。いまでは鉛の弾でやりとりすることさえ躊躇する。それでも人間の本性なんだと思います。人間そのものが垣間見られるので、取材し続けることができました。

――よくヤクザを題材にしたフィクションでは「任侠道」が語られることもありますが。

鈴木:そんなものはただのお題目であって、存在しません。組のために長期刑に服役してる人たちも、結局、彼らは親分のためにではなく、自分の名誉のために懲役に行っている。一方で、暴力団がボランティア活動をしたり、世の中のために行動するのも、決して矛盾しません。彼らも人間なので、承認欲求があるし、人から褒められたいんです。悪の華になれる人なんていない。たとえ悪にまみれてても善を求めて行動するのが、人間のダイナミックさであり、強さです。あと子どもや高齢者が転んだら手をさしのべて助ける、というのは反射的な行為であって、ヤクザだからどうこうということはない。一般の人からすれば、矛盾した行為に見えたり、何かしら裏ががあるように感じられるかもしれませんが、単に彼らも人間だというだけです。

――他にも本著はヤクザならではのカラオケのルールとして、「宇多田ヒカルは藤圭子の娘だから歌っていい」など面白いネタも満載ですね。

鈴木:正直言えば、それはヤクザ流のジョークなんですけど、親分の十八番を歌ってしまうのは御法度です。昭和には、カラオケのマイクの順番や選曲で殺人事件があったんですよ。ヤクザは遊び人ですから、一緒に遊ぶと最高に楽しいんです。宴会なんて最高です。以前、ヤクザの新年会で歌われた曲を記録して統計を取って、それも記事にしたことがあります。

――刺青のランキングも興味深かったです。

鈴木:刺青には岡山は虎、広島は鯉(カープ)などの地方色、時代の流行りなどがあります。そもそも彫師の数が少ないので、彼らが得意な絵になりやすいんですよね。彫師にもオリジナルの絵が描ける人はいますが、やはり少ない。原画を肌に合わせて拡大コピーし、トレースして肌に彫る職人さんなので、オリジナルの絵を掘ったり、冒険すると失敗しやすいらしいです。実際、やっぱり龍など定番の絵柄がかっこいい。似たり寄ったりな刺青になります。

 一番人気があるのは龍で、戦後には女の生首が流行ったこともありました。そもそも仲間内でヤクザ同士が彫りあっていた。妖怪や三国志の英雄、不動明王とか毘沙門天も人気です。でも個人的にカッコいいと思うのは、どう見ても新人が彫った下手くそな刺青です。というのも、それは新米の彫師が一人前になるのを助けるために、文字通り人肌脱いで、練習させた証だからです。一生消せないものなのに、自分の肌を貸す心意気がすごい。だから、どんな刺青であれ、それを貶すのはヤクザの間でタブーになっています。

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