東京創元社、2023年の注目作品は? ミステリからSFまで、豪華ラインナップを発表
ミステリ・SF・ファンタジー・ホラーの専門出版社である東京創元社の2023年新刊ラインナップ説明会が、4月20日に開催された。池澤春菜が司会を務め、作家の加納朋子、砂村かいり、雛倉さりえ、翻訳者の服部京子が登壇した。有観客での新刊ラインナップ説明会は、3年ぶりの開催となる。(メイン写真:左から池澤春菜、加納朋子、雛倉さりえ、服部京子)
注目の国内ミステリとして紹介されたのは、芦辺拓『明治殺人法廷』、楠谷佑『案山子の村の殺人(仮)』、近藤史恵「ビストロ・パ・マル」シリーズ第4弾(仮)、3年ぶりの鮎川哲也賞受賞作となった岡本好貴『北海は死に満ちて(仮)』、加納朋子『1(ONE)』の5作品。デビュー30周年となる加納朋子は『ななつのこ』シリーズの20年ぶり最新作『1(ONE)』について、「このシリーズは、ありがたいことに読者から続きを読みたいという声をいただいていた」と本作の根強い人気についてコメント。また、主人公が愛犬をモデルにした小説を投稿サイトにアップし、読者と交流するという本作の設定について、「相手の素性を知らない上での絆に憧れがあった」として、作家とファンが手紙で交流する物語『ななつのこ』との関連を明かした。
文芸の注目作品は、前川ほまれ『藍色時刻の君たちは』、深沢仁『眠れない夜にみる夢は』、雛倉さりえ『アイリス』、砂村かいり『黒蝶貝のピアス』の4作品。砂村かいりは、アイドルを題材とした『黒蝶貝のピアス』について「ステージの上ではないところで生きるアイドルたちの姿を見てほしい」と、華やかな芸能界のイメージとは異なる一面を描いた本作の読みどころをアピール。また、「他者との関係性」がテーマとなっていることについて、「自分らしさが手放しで賞賛される傾向があるけれど、相手と一緒にいるためにお互いに距離感を探りながら、ときには自分らしさを抑える努力をして均衡を保つ関係性も否定できるものではない」と、持論を述べた。『黒蝶貝のピアス』は第一章「邂逅」までの170ページが、Web東京創元社マガジンにて公開されている。
続いて登壇した『アイリス』の著者・雛倉さりえは、かつて栄光を見た元・子役と映画監督のその後の人生を描いた本作について、「映画監督の男性など、自分とはかけ離れた人物について書けたのが楽しかった」と語った。また、過去の栄光が呪いとなってしまう本作について、「ものを作ること、ものを消費することに携わるすべての人に手に取ってほしい。消費の根源的な快楽や残酷性、寂しさを掬い取った」と読みどころを語った。
海外ミステリからは、アンソニー・ホロヴィッツ『The Twist of a Knife(原題)』、ピーター・スワンソン『Eight Perfect Murders(原題)』、ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』の3作を紹介。翻訳者の服部京子は、ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』について、「多分どなたも予測がつかない。とにかくハラハラドキドキがシリーズ随一」として、『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』に続く本作が、三部作においても最高の仕上がりであると述べた。
海外ファンタジイからは、キャサリン・アーデン『塔の少女〈冬の王 2〉』『魔女の冬〈冬の王 3〉(仮)』、ケリー・リンク、J・Cオーツ他のアンソロジー『闇が落ちるとき(仮)』、イヴリン・スカイ『Damsel(原題)』の4作、国内ファンタジイからは佐藤さくら『幽霊城の魔道士(仮)』、上田朔也『ダ・ヴィンチの翼(仮)』、鈴森琴『騎士団長アルスルと翼の王(仮)』の3作を紹介。担当編集者は、一口にファンタジイと言っても多様な作風があることをアピールした。
2023年で『創元SF文庫』が創刊60周年を迎え、これまで刊行された800タイトル以上を網羅して解説する『創元SF文庫総解説』、ジェイムズ・P・ホーガン「巨人たちの星」シリーズの新装版、同シリーズの最新作となる『Mission to Munerva(原題)』、久永実木彦『わたしたちの怪獣』、倉田タカシ『あなたは月面に倒れている』、『紙魚の手帖 vol.12 Genesis』、宮澤伊織『ときときチャンネル』を紹介。60周年を記念する豪華なラインナップに観客たちからは歓声が上がる一幕もあった。
そのほか、『007/カジノ・ロワイヤル』が宝塚で舞台化されること、乃木坂46の5期生が出演するオムニバス・ドラマ『古書堂ものがたり』にて青柳碧人『ウサギの天使が呼んでいる』などが原作となったこと、イヴリン・スカイ『Damsel』がNetflixにて映像化されることなどを発表。さらに鮎川哲也賞や創元ホラー長編賞など、東京創元社が主催する文学賞についても案内された。
今年で70周年を迎える東京創元社。他にもさまざまな企画が予定されているとのことで、本好きにとっては見逃せない1年となりそうだ。