『ガンダムZZ』作品全体の“座りの悪さ”を生んだ正体は? 手探りの背景にある「挑戦する意思」

『ガンダムZZ』第八話レビュー

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第八話 鎮魂の鐘は二度鳴る

[あらすじ]
 ガザの嵐隊を失ったエンドラのクルーたちは、追悼の鐘を叩いてその死を悼んでいた。しかしアーガマの追撃を焦るマシュマーは追悼集会の解散を命じる。

 一方アーガマではハッチ解放に向けて出航準備が進んでいたが、復讐に燃えるゲモンとジャンク屋たちにチマッターが捕まり、ハッチの解放が止まってしまう。さらにジャンク屋の集会には姿をくらましていたヤザンも現れ、アーガマに出航の合図を送る信号弾を奪う。さらにアーガマを追うエンドラもジャンクヤードの近くに航行してくる事態に。

 チマッターを助けるため行動を開始するジュドーとルカ。ルカはチマッターをコアファイターに乗せて逃げ、ジュドーはアーガマに合図を送る信号弾を回収しようとするが、ヤザンとゲモンが乗ったゲゼに踏まれたことで信号弾が暴発。アーガマは合図を見て上昇を始めてしまう。

 ルカはハッチを開けるためにコロニーの外殻へと向かう。アーガマの中では入院しているカミーユのためにシャングリラに残りたいファも戦闘準備についていた。ジュドーはZガンダムに乗り込み、ヤザンとゲモンに追われつつアーガマにミスを伝える。

 恨みのあるアーガマへと攻撃を仕掛けるヤザンとゲモン。Zガンダムの攻撃でゲモンのゲゼは破壊されるが、ヤザンはアーガマへの攻撃を続行。止めにきたZガンダムに取りつき、アーガマから引き剥がす。

 一方、ルカは手荒な方法でハッチを解放。それを聞いたアーガマはターンしたのちにバックでハッチへと向かう。

 ヤザンは取り付いたZガンダムごとアーガマに体当たりしようとするが、直前で変形したZガンダムにかわされ、逆にビームライフルでゲゼを撃墜される。一方ハッチ内にアーガマが入ったところでエンドラの主砲を使って攻撃をかけようとしていたマシュマーは、墜落してきたヤザンのゲゼに主砲を破壊され、さらにアーガマのメガ粒子砲の攻撃を受けて戦闘不能になる。

 一人アーガマから取り残されたジュドーは機体のコントロールを失って混乱していたが、なんとか操縦を回復させてハッチを通過し、アーガマに帰還する。アーガマがそのまま宇宙へと向かってしまうことに当惑するジュドーだが、流されるままにアーガマに残ることに。

 シャングリラに残されたマシュマーは死んでいった部下、そして戦いに巻き込まれたコロニーの市民のために追悼式を開いていた。葬式が兵の士気を高めることに気づいたマシュマーは、新型モビルスーツのハンマ・ハンマを使っての雪辱を誓うのだった。

 いよいよアーガマが宇宙へと離陸する第八話。アムロがガンダムに乗り込んでからすぐに宇宙へ逃げ出した『機動戦士ガンダム』と比べればここまでなかなか長かったが、ジオン軍から激しい追跡を受けていたホワイトベースと比べれば、『ZZ』の状況は少々異なる。ガンダムに乗って戦う切迫した理由があったアムロに比べて、ジュドーにはその理由がない。その理由をいかにして満たすか腐心した結果が、シャングリラ脱出までに8話をかけたということなのだろう。

 今回も「20分強の間によくもここまで詰め込んだものだ」と感心するような、密度の高いエピソードである。工業用ハッチという裏口からの脱出を狙うアーガマ、アーガマとZガンダムに恨みを持つゲモンとヤザン、そしてアーガマ追撃の任務を諦めないマシュマーと、三つ巴の戦いが展開される。

 まず信号弾を使った合図についてセリフだけで説明せず、まず冒頭に一発目の合図をあげさせて視聴者に「なるほど、信号弾で合図を送るのだな」と理解させ、その上でハッチ解放の合図を送る信号弾をめぐるスリルを演出するという段取りが素晴らしい。ヤザンとゲモンの合流についても説明的なセリフは最小限に抑えられており、にも関わらずこの二人の「まだ強い信頼関係はないが、互いの利益のために協力している」という関係を説明しきっている点にも感心させられる。最小限のセリフで状況を説明しきっているからこそ、短時間に高い密度でストーリーを入れ込めている。

 前話で初登場したルー・ルカについても、行動的で鼻っ柱が強く、ちょっとお調子者なキャラクターであることがセリフ回しと行動で示される。キャノピーを開けたままコアファイターを飛ばして発煙弾をキャッチしようとし、アーガマが間違った信号で離陸したと見るや即座にハッチの制御室へ向かうなど、今回最も忙しく働いているのはルカである。この辺りの説明がスムーズでスピード感があるので、見ていて非常に気持ちいい。

 やたらと長い棒で直接アーガマを叩くゲゼなど、随所にギャグっぽいノリは挟まっているが、アーガマがシャングリラから飛び出せるかをめぐる戦いもなかなかスリリングだ。「瓦礫に埋まったZガンダムを起動できるか」「アーガマが近づくまでにハッチを解放できるか」など、アーガマの動きに合わせて各キャラクターのタスクにタイムリミットが設定され、ストーリー展開に緊迫感が生まれている。「このアニメ作った人、アニメ作るのがうまいな……」と唸ってしまうような内容だ。

 緊迫したスピード感とヤザンやゲモンのギャグっぽいノリのせいで忘れがちだが、今回のサブタイトルは「鎮魂の鐘は二度鳴る」だ。タイトルの通り、エピソードの最初と最後にエンドラのクルーが行った葬儀のシーンが挟まっており、サブタイトルはそれを形容したものである。

 ちょっとギョッとするのは、最後の方の葬儀でマシュマーが「犠牲になったコロニーの人々」のためにも祈っているところである。『ZZ』ではギャグっぽいトーンが前面に押し出されていたこともあり、民間人の犠牲についてはさほどしっかり描写されてはいなかった。しかし、実はあのギャグっぽい戦闘シーンの裏では、きっちり民間人が死んでいたのである。

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