『チェンソーマン』に“犬の悪魔”は登場するか? 頻出する「犬」というモチーフを考える
※本稿は『チェンソーマン』のネタバレを含みます。
『チェンソーマン』は犬の漫画なのかもしれない。アニメ版も好評を博し、現在は漫画アプリ「少年ジャンプ+」にて第2部「学園編」が連載されている本作。タイトルにもあるようにデンジの契約した悪魔である“チェンソー”の存在が目立つ作品であるが、第1話の副題から「犬とチェンソー」であるように、作中に“犬”に関する描写が多く登場する。「ワン」と鳴くポチタ、コミックス第1巻・第4話「力」の扉絵で描かれた首輪をつけられたデンジの姿も、明確に犬を想起させるものだ。本稿では第1部「公安編」の内容を振り返ってみたい。
ゾンビの悪魔との戦闘後、公安のデビルハンターとしてマキマに“飼われる”こととなったデンジ。コミックス1巻の第2話「ポチタの行方」で「いいえなんて言う犬はいらない」と発するマキマに対し、デンジは「人を犬みてーに扱いやがってよぉ…!」と思いながら表情をゆがめていた。しかしマキマとの交流を重ねていくなかで「ワン!」と返事をするようになり、マキマは「本当に犬みたい」とこぼしている。
デンジを「犬」と称しているのはマキマだけではない。2巻でデンジはパワーと共にコウモリの悪魔、そしてヒルの悪魔と対峙する。第10話「コン」でヒルの悪魔は戦闘により消耗したデンジを見て「こんな子犬ちゃんにコウモリは殺されちゃったの⁉」と発している。また5巻の第38話「気楽に復讐を!」では敵対するサムライソードがデンジに対し「お前には何もできねぇだろ/公安の犬風情がよ」と挑発した。一般に使われるだろう頻度を大きく超えて、たとえば「従順さ」の象徴として「犬」という言葉が多く使われている。
同じく5巻の第40話「恋・花・チェンソー」にてデンジは少女・レゼと出会い、親しい関係を築いていくこととなる。そんなレゼも出会ったばかりのデンジに「アナタの顔…死んだウチの犬に似ていて…」と話している。こちらは親しみや懐かしさを含む対象としての「犬」だ。ちなみに6巻の第44話「バン バン バン」で「デンジ君の心臓貰うね?」と話しているように、レゼの目的はソ連の戦士としてチェンソーの悪魔であるデンジの心臓を手に入れることであった。
それぞれに表現は異なるものの、ヒルの悪魔やサムライソード、レゼなど、デンジを狙うキャラクターの多くはデンジを犬と関連付けている。そして物語終盤では不安を覚えたデンジ自身の口からも「犬」という言葉がこぼれるようになる。
たとえば10巻の第80話「犬の気持ち」で、デンジはマキマに「犬…に…なりたい/マキマさんの……」と発した。11巻の92話「バニラスカイ」でもコベニに「これから生き延びれても俺はきっと…/犬みてぇに誰かの言いなりになって暮らしてくんだろうな」とこぼしている。しかしデンジの弱気な思いを耳にしたコベニは自身の考えを述べ、デンジの表情は一変する。そして公安編における最終決戦を経て、眠りにつくデンジの周りには多くの犬たちが描かれた。