『チェンソーマン』ラブコメ漫画としての魅力は? デンジとアサの少女漫画的な関係性

ラブコメ漫画としての『チェンソーマン』

※本稿は『チェンソーマン 第二部』のネタバレを含みます。

 藤本タツキによる大人気漫画『チェンソーマン 第二部』の第118話が、1月18日に漫画アプリ「ジャンプ+」で公開され、Twitterでは作中で登場した「デンジ脊髄剣」というワードがトレンドになるなど、大きな話題となっている。

 『チェンソーマン』は凄惨な暴力描写や予測不能な展開に注目が集まる作品だが、一方で藤本タツキならではの独特なユーモア感覚が炸裂したラブコメディ的要素も大きな魅力のひとつだろう。第118話では、三鷹アサの体を乗っ取った“戦争の悪魔”ことヨルが、その能力でデンジを武器に変えようと彼の頭に手を乗せて「デンジ脊髄剣」と唱えるが、デンジはなぜか武器化しない。デンジはアサ(ヨル)の行動を「さよなら」に変わる挨拶だと勘違いし、アサの頭に手を乗せて「アサ脊髄剣」と唱える。結果として頭を撫でられただけのアサは、自覚はせずともデンジへの恋心を募らせてしまうのだったーー。

 『チェンソーマン』第一部では、デンジがマキマ、パワー、姫野といった女性キャラクターに純情を弄ばれる様に、大いに赤面させられたものだが、第二部ではアサとヨルの内なる葛藤にもムズムズさせられそうだ。『チェンソーマン』のラブコメ的展開をどう捉えたら良いのか。ドラマ評論家の成馬零一氏に聞いた。

「『チェンソーマン』第一部では、コメディパートの後には凄惨な暴力シーンや愛すべき登場人物の死が描かれたため、不安とともに読み進める不思議な感覚がありました。今はすごく楽しいシーンだけれど、この後にはきっとひどいことが起きるんだろうなという予感が常にある感じ。第二部は冒頭から予想のつかない展開が続いたため、物語がどこに向かっているのかがわからない不安はありましたが、しかしアサとデンジの関係性が構築されていくに連れて、次第にコメディパートを安心して楽しめるようになったように思います。というのも、相手が主人公のデンジであれば、いずれは衝突する可能性があるものの、まず急に死んでしまうことはないはずだからです。

 そこで改めて物語を読み返すと、第二部はアサを取り巻く人間関係を丁寧に描いていて、どこか少女漫画のようなコメディ感があることに気付かされます。アサとヨルはどちらも世の中とズレている感じで、彼女たちのおかしなやり取りや周囲の人々との関わりには、椎名軽穂による学園モノのラブコメ漫画『君に届け』のような趣きすらある。作者の藤本タツキは、もともとこうしたコメディを描くことに長けた作家ですが、第一部と第二部の間に描かれた『ルックバック』『さよなら絵梨』『フツーに聞いてくれ』などの短編を経て、いっそう巧みになった印象です」

 第二部では、アサの視点から描かれるデンジに成長が見られるのも、心穏やかに読めるポイントだという。

「最新話では、デンジがおそらく“支配の悪魔”であるナユタとともに生活していて、彼女のために学費を稼いでいること、またアサの傍若無人な態度にパワーの影を見ていることなどが匂わされて、第一部からのファンにとって嬉しい展開となりました。第一部の初期には狂っているがゆえに強いキャラだったデンジが、情緒を感じさせる台詞を口にする姿に成長が感じられます。こうしたポイントも、第二部の楽しさに奥行きを与えているのではないでしょうか」

 また、コメディタッチの日常と暴力的なバトルシーンを同居させた作風には、時代風潮の反映もあると成馬氏は見ている。

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