浦沢直樹、自作で一番好きなのは『Happy!』「自分の持っている“本性”をフルで出せた」

 漫画家・浦沢直樹氏の作品がデジタル配信を開始してから1年が経過した。2022年12月28日からは電子書籍か第6弾として、『Happy! 完全版 デジタル Ver』全15巻が配信。これに合わせて、浦沢氏は自身の公式YouTubeチャンネル「浦沢チャンネル -URASAWA CHANNEL-」を更新し、同作への思いを語るとともに、“漫画で「迫力ある動き」を描く方法”を解説している。

漫画で「迫力ある動き」を描く方法を解説します。

 『MONSTER』『20世紀少年』『PLUTO』など多くのヒット作を生み出し、スポーツ漫画においても『YAWARA!』という金字塔を持つ浦沢氏。そんななか、自作で一番好きなのは『Happy!』だと明かしている。

 『Happy!』は1993年から99年まで「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載されたテニス漫画だ。主人公は、幼い弟妹の世話をしながらテニスに打ち込む海野幸。両親の死、兄が残した莫大な借金など、逆境の中で“稼ぐ”ためにプロテニスプレイヤーになり、奮闘する姿を描いた人気作だ。浦沢氏は、前作となる『YAWARA!』で「ワァ」という“歓声”を書きすぎて、「もういいじゃないか」という気持ちがあったという。そこで『Happy!』は、『YAWARA!』とは正反対の“ブーイングを受けるヒロイン”を描くことになった。

 ブーイングを浴びるヒロインをいかにしてエンターテインメントとして届けるか……ということを考えていたら「ワクワクしてきて、自分の持っている“本性”のようなものをフルで出せちゃった感じがある」と、浦沢氏は振り返る。ファンからしても“悪い浦沢直樹”がよく出ている作品だが、意地悪な展開ゆえに、健気に努力を続ける幸に感情移入した側面がある。浦沢氏自身も、いまでも読み返すと「ちょっと泣いてしまう」と語るほど、感情を揺さぶるドラマになっている。

 貴重なエピソードトークだけで終わらないのが、浦沢チャンネルの面白さだ。今回は『Happy!』というスポーツ漫画がテーマになっていることに合わせ、冒頭にも記したように、漫画における「迫力のある動き」について、自らペンを取って解説。詳しくは動画をチェックしていただきたいところだが、例えばそのポイントとして、テニスであればボールをインパクトする瞬間ではなく、「ラケットを振り切る」という時間の経過を含めたコマを描くことで、迫力が伝わることを示した。確かに、インパクトの瞬間はむしろ静かな画面となり、ボールを強く弾き返す、というスピード感や役力は伝わってこない。このように一コマの中に「時間の流れ」を埋め込むのが、漫画家の腕なのかもしれない。

 『Happy!』のファンにも、漫画家を目指すクリエイターにも嬉しい今回の動画。海外にも多くのファンを抱え、動画に英語字幕をつけていることもあり、外国語のコメントも多く寄せられている。今後どんな作品について語り、どんなキャラクターを描く様子を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=UNA4AwoW6-s

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