『今日からシティーハンター』作者・錦ソクラが語る、作家・北条司のすごさ 「同じ漫画家として尊敬するしかありません」

『今日からCITY HUNTER』

年齢を追い越しても冴羽獠に憧れている人は多い

『今日からシティーハンター(11)』

ーー私も含めて熱狂的ファンが多いですからね。もう少しファンへの気遣いについて聞かせてもらえますか。

錦:1番は冴羽獠のイメージを大切にすること。ファンには、冴羽獠ならこんなこと言わない、こんやことやらないというイメージがあると思います。僕の中にもあるので、話の流れを考えるときに、獠ならどういう行動をとるのだろうか、と考えます。無駄に株を下げるようなことは絶対にしたくありません。

 これは他のキャラクターに対しても同じで、香と獠の関係についても、都合よくこっちの物語の展開に合わせて動かすようなことはしたくありません。香ならどうするだろう、と考えた上で違和感のないストーリーにしています。

ーーストーリー作りの上で制約があるのは大変ですか。

錦:キャラクターありきのストーリー展開なので、とても気を使います。編集グループと意見を出し合いながら慎重に進めています。

ーーでは、錦先生が考える、冴羽獠なら絶対にしないことはなんですか。

錦:バトルシーンにおける弱い獠、というのは出しません。彼の腕前と精神的な強さは揺るぎないものだと思っています。原作でも、悪役は三下に描かれていることが多いですよね。


ーーなるほど。確かに冴羽獠は最強ですよね。ところで、各エピソードは何を基準に選んでいるのですか。

錦:『今日からシティーハンター』の主人公は転生者で、読者と同じ目線、つまり物語に対する第三者的な立場に立ったキャラです。そんな彼女の目線が入ると面白くなりそうなエピソードを選ぶようにしています。実は裏側ではこんなことが起こっていたんですよ、と話を膨らませやすいものなどが、それにあたりますね。

 反対に、第三者的な視点を入れてもストーリーをなぞるだけ、オリジナルのストーリーと大差なく終わるようなものや、小話的なエピソードも選ばないようにしています。

 もともと、『シティーハンター』は無駄がなく、コマも展開もセリフも完成度が高い組細工のようなもの。そこに手を加えるのは蛇足でしかないのかな、と思うこともあります。だから、完成形に手を加えるのではなく、バックストーリーを語る切り口を意識しています。

ーー第三者目線といえば、主人公は40歳の『シティーハンター』ファンですよね。なぜその年齢の女性を転生させることになったのですか。

錦:企画段階で、僕も編集者の方も、『シティーハンター』のファンは女性が多いという認識を持っていました。そして、改めて冴羽獠の魅力、今の漫画にはない格好いい男の魅力を最大限伝えるためにはどうすればいいか、と考えた時に、子どもの頃から冴羽獠に恋焦がれてきた女性目線を通すのがいいのではないか、という結論に至りました。

ーー40歳というのがまた絶妙ですよね。実は私も40歳ですが、この年齢になった改めて『シティーハンター』を読むと、獠と香の恋愛かけひきって大人の恋ではなく、とても子供っぽいというか、若いからこそできる関係なんだと気づきました。心臓が張り裂けそうなドキドキを抱えて日々を一緒に過ごせるのは、心も体も若いからこそだと思うんです。今みると、二人の関係の幼さと、絶対に他が入り込めない強い絆がわかるんですよ。

錦:僕は今の40歳の女性ファンの目線を汲み取りきれていない部分が多分にあると思っています。

 至らぬ点はありますが、僕が昔読んだ時に感じたシティーハンターや冴羽獠の格好よさを、現世のゼノンに蘇らせたいという思いで描いています。

 彼の格好よさは普遍的で、彼の年齢を追い越しても冴羽獠に憧れている人は多いんですよね。追いかけたい存在なんです。

ーーなるほど。だからあの頃に戻れるような、続編を読んでいるような感覚になれるのかもしれません。『シティーハンター』は映画版もテレビ映画版も、その時代の要素を取り入れた物語にしているのですが、ファンはそれを受け入れる一方でオリジナルの時代感を楽しみたい気持ちもあるんですよね。私が『今日からシティーハンター』が好きなのも、それが理由のひとつです。あの頃に戻れるんですよ。

錦:今に合わせようとすると、いかにスマホやテクノロジーを取り入れるかって話になってきますからね。

ーー見る側も、そこに意識がいきすぎて物語に集中できなくなっちゃうことがあるんですよね。『CH』を語り出したら話が止まりませんね。

 では、最後に『今日からシティーハンター』は従来の『CH』ファンにも注目されている作品ですが、ファンの皆さんに対するお気持ちを聞かせてください。

錦:北条先生と『シティーハンター』が大好きで追いかけ続けた自分なので、こうやってスピンオフを描かせていただいているのは非常におこがましいと思っています。それを前提の上で、ひとりのファンとして、改めてたくさんの読者に向けて『CH』の凄さを伝えていきたいし、新しいファンの方にも知ってほしいです。

 昔からのファンの方には、満足していただけない部分や至らない部分もあるとは思うのですが、「『CH』ってやっぱりいいよね」と共感してもらえるような魅力を詰め込んだ作品にしたいという点だけはブレずにやっていきたいと思っているので、温かい目で見守って頂けると嬉しいです。

■関連情報
『今日からCITY HUNTER』
漫画/錦ソクラ 参考書/「CITY HUNTER」北条司
2023年2月20日に12巻が刊行
©北条司/コアミックス 1985、 ©錦ソクラ
マンガほっと:https://mangahot.jp/site/works/z_R0111
Webゼノン編集部:https://comic-zenon.com/episode/10834108156693612691

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