漫☆画太郎、衝撃の新連載に『ハレンチ学園』新作……時流に沿わない尖った作品と「漫画アプリ」の相乗効果を考える
マンガアプリ「少年ジャンプ+」で本日11月10日、ギャグ漫画家・漫☆画太郎の新連載『漫故☆知新~バカでも読める古典文学~』がスタートした。
漫☆画太郎先生、新連載始まりました。
ジャンプラ読者を啓蒙します。
よろしくお願いします。
1/3 pic.twitter.com/yzMmNQ6esQ— モミー 【少年ジャンプ+編集】 (@momiyama2019) November 9, 2022
漫☆画太郎といえば、コンプライアンスとは無縁の狂気的な作風で知られるが、本作でもエンジンは全開だ。冒頭から「漫画ばっか読んで古典文学を読まないから ジャンプラ読者はバカしかおらんのだーーーーーーーッ!!!」と読者を挑発し、プロレタリア文学の名作を暴力とお下劣でフルコーティングして描いていく。
なぜかフルカラーのアートワークも含めツッコミが追いつかず、アプリのコメント欄に寄せられた「私はこれを掲載許可した編集者を称賛したい」という声にも、「最後のページに『つづく』って書いてあって戦慄した」「こんなにも読み切りであってほしかったことはない」という言葉にも同感だ。
特にラスト数ページは、いまがどんな時代でも「最低」な内容だ。逆に言えば「そういうもの」として読める振り切った内容であるため、漫☆画太郎作品についてまわる「青少年への悪影響」という懸念は杞憂にも思えるが、意図せず多くの耳目に触れうる大手漫画誌への掲載はこのご時世、考えづらい。読者の選択可能性が比較的高いアプリだからこそ、「少年ジャンプ」と名のつくメディアへの掲載が可能だったと見ることができる。もともと本誌掲載だった人気作『チェンソーマン』が第二部より「ジャンプ+」に移籍し、より過激な内容で自由に描かれていることにも通じるところだ。
一方で、同じく本日11月10日、『デビルマン』および『マジンガーZ』の50周年を記念した永井豪のトリビュート本『漫画家本スペシャル 永井豪本』(小学館)が刊行され、これに『ハレンチ学園』の約27年ぶりとなる新作『新装開店ハレンチ学園』が掲載されていることも話題を広げている。
『ハレンチ学園』も、もともとは「週刊少年ジャンプ」に連載された作品であり、1968年から72年まで、思春期の少年たちを魅了した人気作だ。しかし、「スカートめくり」流行の一因を作ったとする見方もあり、当時においてもPTA等から問題視されてきた経緯がある。こちらも、創作物についてもコンプライアンス遵守が叫ばれる現在においては、大手漫画誌での掲載は見送られそうだ。趣味性の高いトリビュート本だから掲載できた新作と言えそうだが、こちらも「アプリ連載」なら可能かもしれない。
大手アプリが「漫画購読のメインストリーム」という認識が広まればどうかわからないが、少なくとも現状では、漫画雑誌より多様な表現が許される場であり、尖った作品が生まれる土壌となっている。「ジャンプ+」で人気を博し、作者・タイザン5の本誌連載を決定づけた『タコピーの原罪』や、「別冊少年マガジン」から「マガジンポケット」に移籍し、好評連載中の『十字架のろくにん』など、グロテスクで非倫理的な描写の多い衝撃作も、アプリがあったから世に出た作品と言えるだろう。
ここでいわゆる「有害コミック」に関する議論をするつもりはないが、漫画というアートの多様性を重視するなら、現状で漫画アプリが果たしている役割は小さくないだろう。『漫故☆知新~バカでも読める古典文学~』の評判いかんでは、漫画アプリは刺激的な新作が生まれる場所であるだけでなく、コンプライアンス遵守の時流や表現規制により活躍の場を見出しづらくなった往年の人気作家が、再起を果たす場になっていくかもしれない。