クソリプ主に電凸した結果は? アンチと会話してわかった、SNSコミュニケーションの難点
ツイッターやフェイスブックなどのSNSで、知り合いでもない人々から送られてくる誹謗中傷や的外れな返信コメント、通称「クソリプ」。このクソリプを送られた側が、送り主のアンチに電話をかけて会話をしてみたらどうなるのか? そんな風変わりな実験を記録したノンフィクションが、本書『ボクのクソリプ奮闘記 アンチ君たちから教わった会話することの大切さ』(DU BOOKS)だ。
著者のディラン・マロンは、ニューヨークに拠点を置くネット専門の放送局「シリアスリーTV」で作家・特派員として活躍していた。彼が企画・出演する保守派による差別や偏見を面白おかしく皮肉る動画は、アップするたびにどんどん再生回数を増やしていく。大衆を啓蒙し、社会の軋轢を緩和しようという彼の目論みは成功しているかに見えたのだが……。
2016年のアメリカ大統領選は、共和党のドナルド・トランプが勝利を収める。自分の作った動画の影響力を信じ、民主党候補のヒラリー・クリントンが勝利すると確信していたマロン。ショックを受けた状態でおもむろにパソコンを開き、自分のアンチからのクソリプを画像保存した「ヘイトフォルダー」を見てこう思う。〈ひょっとするとこのフォルダーは、自分が思っていたよりよほどこの国の縮図に近いのかもしれない〉。そしてこれまで見えていなかった現実を前に、〈さて、自分ならこいつとどう向き合う?〉と考えるようになる。
〈やあジョシュ、調子はどうかな?〉〈上々だ。そっちは?〉。シリアスリーTVの番組『戯言(ブルシット)をやめさせろ‼︎』の収録でマロンが電話をしている相手は、〈お前ってさ、マロンじゃなくて間抜け(モロン)だよな。(略)だからとっととやめちまえ。あとな、オカマだってのはそれだけで罪だ〉とフェイスブックでメッセージを送ってきたクソリプ主のジョシュ、その人だった。
大統領選挙後のある出来事をきっかけに、ジョシュとは何度かコンタクトを取っており、信頼関係はそれなりに築けている。二人でクソコメの内容を振り返りながら、「間抜け」という言葉を撤回してもらい、ジョシュがマロンのことをハリウッドセレブと同じくらい有名だと思い込んでいたことが判明し、同性愛者忌避の考えは変えられず、過去にイジメに遭った経験から自分の受けた痛みを他の人間に与えても大丈夫だと思ってクソリプを送っていたことがわかる。
だが何よりの収穫は、クソリプについて〈この先はたぶん――だからそういうことをやってやりたいという衝動に駆られた時には、俺はきっと、自分がお前に同じことをして、それをきっかけにして起こったこの一連を全部総浚えで思い出して、そうしておそらく、考え直すんだと思う〉と話す、ジョシュの気持ちの変化だった。
収録に手応えを感じたマロンは、シリアスリーTVを卒業。ポッドキャスト番組『やつらがボクのことなんて大っ嫌いだってあんまりいうから、とりあえず直で電話して話してみた件』を立ち上げ、アンチとの対話に留まらず、反目し合う他の人々の仲介にも乗り出す。
本書では収録の模様を再現しながら、マロンの会話を通じて得た発見やホスト役としての反省が語られていく。そこで興味深いのは、クソリプとはまた別のSNSにおける攻撃的なコミュニケーション方法が会話を妨げてしまう現象だ。たとえば、論破。政治や社会問題などシリアスな話題について考え方の異なる者同士が出会うと、ネット上では互いを敵と見立てた論戦になりがちだ。会話でそれをしてしまうと、いかに論破するかに気がいって話もろくに聞かず、相手を理解するための気配りも失われてしまう。収録では40分以上議論を続けていたことに気付いたマロンが、取れ高のまったく無いことに大いに焦る事態となる。