加藤シゲアキの注目作や阿部智里の累計ミリオンセラーの最新作も……立花もも解説! 10月の文芸書週間ベストセラー
続く4位は『1と0と加藤シゲアキ』。ジャニーズ事務所のアイドルグループNEWSに所属するアイドルである加藤成亮が、加藤シゲアキと名前を変えて小説家としてデビューしてから今年で十年。2020年には『オルタネート』が直木賞にノミネートされ、翌年は本屋大賞にもノミネート。惜しくも受賞は逃したが、同作は吉川英治文学新人賞を受賞した。もはや彼の小説家としての実力を疑うものはいないだろう。2021年には自身の短編小説「染、色」をみずから脚本化して上演し、岸田國士戯曲賞にノミネート。今年は原作・脚本・主演をつとめたショートフィルム『渋谷と1と0と』の公開も決まり、その才能は日を追うごとに研ぎ澄まされている。
『渋谷と1と0と』の小説と脚本の双方が収録された『1と0と加藤シゲアキ』は、加藤が責任編集をつとめたスペシャルブック。映画監督の白石和彌、劇団イキウメの劇作家・前川知大、お笑い芸人で作家の又吉直樹との対談や、10年の作家生活を振り返る2万字越えの超ロングインタビュー、恩田陸や中村文則など錚々たる作家たちとの競作など、10周年を記念するにふさわしく、その多彩な才能を改めて感じる一冊となっている。
6位の『#真相をお話しします』は、日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」をはじめとする、どんでん返しミステリーを5篇収録したもの。6月に刊行された作品だが、その読み心地がクセになる読者が続出したか、ランキングに再浮上。家庭教師の仲介営業のバイトをする大学生が訪れた奇妙な家庭、娘のパパ活を疑いながらマッチングアプリで出会った女性とデートする男、待望の我が子を授かった夫婦の前に現れた「あなたの精子提供で生まれた」と名乗る娘……。どこにでもある、というほどではないけれど、隣家では起こっているかもしれない程度にはありえそうな出来事を通じて、登場人物たちの日常は少しずつ歪んでいく。
読みながら、なんか変だな、おかしいな、と違和感を覚えて疑ってかかるも、その疑いや予想を軽々と凌駕して物語が展開していくのも、人気を集めている理由だろう。物語のなかにある歪みは、いつのまにか読み手である私たちにも伝播して、自分の日常もどこか軋んでいるような気がしてきてしまう。「騙されたい」「そうきたか!と膝をうちたい」人には、特におすすめ。