菊地成孔が語る、リュック・ベッソン自伝への驚愕 「豪快かつ赤裸々に色々なことが書かれている」

菊地成孔が語る、リュック・ベッソン論

 『グラン・ブルー』『レオン』『フィフス・エレメント』などのヒット作を持つ映画監督、リュック・ベッソンの自伝『恐るべき子ども リュック・ベッソン『グラン・ブルー』までの物語』(辰巳出版)が出版された。

 『恐るべき子ども』は、子ども時代の思い出から、代表作『グラン・ブルー』を撮るまでの半生を本人が綴った作品。幼少期の複雑な家庭環境、10代の頃に経験したダイビング中の事故、映画の世界に飛び込んだ経緯からはじまり、出世作『サブウェイ』、世界的ヒットとなった『グラン・ブルー』の制作プロセスなどを生々しく、大仰な筆致で記している。リュック・ベッソンに関わった映画人、セレブリティの実名も数多く登場し、80年代のフランス映画界の裏側が詳細に描かれているのもノンフィクションとしての本作のポイントだろう。

 “え、そんなことがあったの?”という驚きに満ちた冒険譚としても魅力的な本作。この本の読みどころ、映画作家としてのリュック・ベッソンについて、音楽家、そして映画批評家としても知られる菊地成孔氏に聞いた。辛辣にしてシャープな“リュック・ベッソン論”を楽しんでほしい。(森朋之)

※あわせて読みたいレビューはこちら→<a href=”https://realsound.jp/book/2022/09/post-1130680.html”>『グラン・ブルー』『レオン』『フィフス・エレメント』……リュック・ベッソン監督が歩んだ、波乱と驚きの人生</a>

ここまで豪快に書いてるというのはすごい

リュック・ベッソン『恐るべき子ども リュック・ベッソン『グラン・ブルー』までの物語』(辰巳出版)

——まずは、菊地さんがリュック・ベッソンをどう評価しているか聞かせていただけますか?

菊地:リュック・ベッソンは大変な巨匠であり、ビジネス的な成功も収めていますが、僕が好きなのは『サブウェイ』だけで、あとの映画は正直、あまり好きではない。映画を観れば、監督の人となりはなんとなく想像つくじゃないですか。映画が好きで好きでたまらない監督と、自己表現の手段に過ぎない監督がいるとしたら、リュック・ベッソンは完全に後者だと思います。作品を観ても「この人、本当に映画が好きなんだな」とは感じない。その印象は、本を読んでも変わりませんでした。

 ただ、『恐るべき子ども』は内幕物の読み物として非常に興味深い本だとは思います。この本はリュック・ベッソンの前史というか、生まれてから『グラン・ブルー』を撮るまでが書かれているんだけど、自分がどんなにやばい少年だったかにかなりの文字数が割かれている。控えめに言っても、かなりの自己愛、ナルシシズムですよね。本のラストもすごい。『グラン・ブルー』について『マスコミの酷評にもかかわらず、来る日も来る日も観客が劇場を埋めていく。大衆がこの作品を認め、支持してくれるようになった。作品は六十週のロングランを達成し、一千万近い動員数を記録した。』というのは事実ですが、『やがて、八〇年代を代表する映画と見なされるようになる』というくだりは“それ、自分で言うこと?”という感じじゃないですか(笑)。巻末の『妻に、子どもたちに、両親にこの本を捧げる』ともありますが、この人、4回結婚しているんですよ。

——リュック・ベッソンの生い立ちについてはどうですか?

菊地:両親がフリーダイバーで、彼自身も気が付いていたら海に潜っていた。あるときに事故を起こし、2度とダイビングできない体になってしまった……というのは、フランス映画に興味があれば誰でも知ってることですが、この本に書かれた事故の描写はかなり生々しいし、フロイト的に言えば、そのときに味わった挫折が、あとにつながるエネルギーの備蓄になったことがよくわかりました。ただ、最初に言ったように映画が好きだったという話がほとんどないんです。小さい頃からフィルムセンターに通い詰めて、現実と映画の境目がわからなくなるような経験をして、カメラを手に取った、といった経験もまったくない。インターテクスチュアリティというか、本のなかに出てくる作品も有名なものばかりなんですよ。『スターウォーズ』とか。音楽はマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』で、写真はヘルムート・ニュイートン。マニアックが偉いとは言いませんが、フランスの映画監督だったら、もうちょっと何かあるんじゃないの?と思いますけどね(笑)。嘘でもいいから、ヌーベルバーグの最初期とか、アメリカの映画監督だったらジョン・フォードとか書いておけば、恰好が付くのに。それでも“映画って何だか派手だし、自己表現にちょうどいい”という感じで映画に関わるようになり、持ち前の行動力と冒険心でどんどん進んでいく。その過程も赤裸々に書かれています。

——『最後の戦い』『サブウェイ』の制作のプロセスもかなり詳細に記されていますね。企画を横取りされそうになったとか、俳優が途中で降りて困ったとか。

菊地:恨み言も多いですね(笑)。映画のバックヤードなんて、そんな話の山なんですよ。『戦場のメリークリスマス』のヨノイ大尉役が坂本龍一に決まるまでに、5人の俳優が候補に挙がっていたとか。そういうエピソードを自伝に書くかどうかは非常に繊細な問題と思いますが、この本ではーー時効だと思っているのか、暴露するつもりなのかーーあけすけに綴られています。(『サブウェイ』の主演候補だった)スティングはいい人として書かれていますが、“『サブウェイ』に出る予定だったんだぜ”と自慢げにチラつかせている(笑)。出演が叶わなかった女優のなかにはボロクソに書かれている人もいるんですよ。フランス人の映画監督で、女優をここまで糾弾する人、ほかにいないでしょうね。コンプラや倫理に縛られている今の世の中で、ここまで豪快に書いてるというのはすごいし、昭和の暴露本を読んでいるような懐かしい気分になりました(笑)。失われつつある文化を感じられるという意味ではかなり貴重でしょうね。

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