『バガボンド』『ジョジョリオン』顕彰してきた文化庁メディア芸術祭が終了へ 漫画にもたらす影響とは?
漫画やアニメーション、ゲーム、メディアアートといったメディア芸術と呼ばれる分野から、優れた作品を顕彰していた文化庁メディア芸術祭が終了する。9月16日から26日まで第25回受賞作品展を日本科学未来館(東京・お台場)で開催する一方で、この回をもって募集を停止し来年度以降の顕彰を行わない。メジャー作品やベストセラー作品を含みつつ、知る人ぞ知る作品や同人誌作品、海外作品も積極的に取り上げ道を拓いてきた賞の"消滅"は漫画の世界に何をもたらすのか?
1997年に始まった文化庁メディア芸術祭は、第4回で井上雄彦・吉川英治の『バガボンド』、第17回で荒木飛呂彦『ジョジョリオン ―ジョジョの奇妙な冒険 Part8―』を大賞に選ぶなど、広く知られた作品や作家の取り組みをしっかりと捉え、顕彰して来た。第24回の羽海野チカ『3月のライオン』も、マンガ大賞2011や第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞の受賞を経ての贈賞で、10年以上に及ぶ連載を祝う節目となった。
一方で、第5回で『マドモアゼル・モーツァルト』の福山庸治が経済紙の「週刊ダイヤモンド」に連載した『F氏的日常』を大賞に選び、第9回では吾妻ひでおの自伝的作品『失踪日記』に贈賞。岩岡ヒサエ『土星マンション』、島田虎之助『ロボ・サピエンス前史』といった、他の漫画賞にはあまり名前の挙がらない作品を選び、顕彰を通して世の中に存在を知らしめる役割を果たしてきた。
第25回のマンガ部門大賞は持田あき『ゴールデンラズベリー』。ずば抜けたキャラクターの魅力や高い画力、そして作品の持つ勢いが評価され、「女性マンガジャンル全体の再認識と幕開けの期待も込めて大賞の授与とする」(審査委員のおざわゆきによる講評)といった支持を得て、結果として最後を飾る大賞作品となった。
第25回の優秀賞には、マンガ大賞2022を受賞したうめざわしゅん『ダーウィン事変』、大勢のファンを持つ浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』と、大賞に推されても遜色ない有名どころの作品が並んでいる。そして同列に、西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』、ベトナム系アメリカ人のティー・ブイによる『私たちにできたこと――難民になったベトナムの少女とその家族の物語』が並んで、幅の広さを見せている。
社会に影響を与えた作品が選ばれるソーシャル・インパクト賞は、和山やま『女の園の星』。受賞作品展にはこうした受賞作や、審査委員会推薦作品の原画や単行本が置かれ、今の漫画の旬がどこにあるのかを知ったり、高い画力の秘密がどこにあるのかを確かめたりできる。
それも今回まで。マンガ大賞や手塚治虫文化大賞、そして古くからある講談社漫画賞なり小学館漫画賞では同様の受賞作品展は行われないため、漫画家を目指すクリエイターや漫画に興味のある人が、身近に作品に接する機会がひとつ、失われてしまうことになる。
近年、漫画をテーマにした展覧会がひんぱんに開かれるようになり、漫画作品を収蔵・展示する横手市増田まんが美術館や、京都国際マンガミュージアムのような施設も登場している。文化庁メディア芸術祭が始まった1997年当時のように、国がポップカルチャーを支援して一般の認識を高めなくても良くなった。
10月28日から森アーツセンターギャラリーで始まる『冨樫義博展 -PUZZLE-』など、相当な賑わいが今から予想される。こうした状況をもって文化庁メディア芸術祭は、ひとつの役割を果たしたと言えるのかもしれない。