2022.08.26 07:00

ラノベ原作の異世界漫画　儚くも切ない、やるせなさ……不条理な運命に抗う今読みたいおすすめ作品

文＝白石弓夏

最近、漫画のタイトルや表紙が気になって手に取ってみると、ライトノベルを原作としたコミカライズ作品であることが多い。異世界転生ものばかりでなく、SFファンタジーやミステリーサスペンスなど、ジャンルもさまざまで、アニメ化されている作品も増えた。そのなかで、最近筆者が読み始めたラノベ原作のコミカライズのなかでも、不条理な運命に抗い、儚くも切ない、やるせなさを感じる異世界漫画を2作品紹介したい。

『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから※ただし好感度はゼロ』（漫画：白川蟻ん原作：六つ花えいこキャラクター原案：秋鹿ユギリ）

　魔法学校に通う17歳のオリアナは、恋人である公爵家嫡男のヴィンセントとともに謎の死を遂げる。死ぬ前の記憶を持ったまま7歳の姿に戻ったオリアナは、死の原因を突き止め、今度こそヴィンセントを守ることを心に誓う。最愛の人が目の前で息絶えるなか無力だった自分、その前に何か焦っているようなヴィンセントの異変に気づけなかった後悔とともに。

　しかし、2度目の魔法学校生活でヴィンセントと再会できたものの、「人違いだろう」と距離をとられてしまう。彼女の愛する人は、彼女を覚えてはいなかったのだ。ヴィンセントは2人が恋人だった頃の記憶がなく、しかもオリアナの名前もわからず、「付き合いきれない」と、避けられてしまうこの状況。オリアナにとっては大好きなパパも友達も、以前からの私を知っている人は誰もいない。絶望感や孤独感に押しつぶされそうになりながらも、持ち前の明るさと積極的な性格で苦境と逆境に立ち向かっていく。

　転生ものによくある都合の良いチート設定ではなく、過去に戻って人生をリスタートし、健気に恋人を守るオリアナ。いつ思い出してくれるのかと切なる願いを抱え、ヴィンセントを見つめる姿と、時折見せる恋人であった頃にみた彼の優しさや仕草なども相まって、筆者も胸が張り裂けそうになる。美しい絵とともに、儚くも切ない、だけど少しだけ心温まるひとときをこの作品で感じてほしい。

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『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。―妹と結婚した片思い相手がなぜ今さら私のもとに？と思ったら―』（漫画：家守まき原作：永野水貴キャラクター原案：とよた瑣織）

　幼くして両親を亡くしたウィステリアは、善良伯と名高いラファティ家に引き取られた。彼女は初恋であるルイニング公爵家の次期当主であるブライトへの気持ちに胸を張れるように、ラファティ家に恩を返せるように、忌避されている未明の地と魔法の研究を続けていた。あるとき、未明の地の濃くなった瘴気を調整するため、王家の決定でウィステリアの妹ロザリーが”番人”に選ばれてしまった。二度と戻れない、つまりは生贄だ。ウィステリアはどうにか回避できるようにと奔走するなか、ブライトの本当の気持ちを知ってしまう。そして、ブライトから「ロザリーの代わりに未明の地へ行ってくれ」と懇願されるのである。

　実はウィステリアは、陰で魔女と呼ばれていたように、瘴気に耐性があったのだ。ロザリーがいなくなれば……と一度でも考えてしまった罰が下ったのだと、やるせない気持ちを抱えながらも番人となることを決めた。ところが、聖剣サルトを相棒として訪れた未明の地だったが、孤独にもそこで番人としてウィステリアは長く生き延びていく。一方で彼女の前に突如現れたのは、初恋の人に瓜二つの男で……。

　序盤からタイトル通りの強烈な展開でスタートするこの作品。最初は悪役令嬢ものかと勘違いしそうになったが、そこからの急展開に驚きを隠せない。初恋の人の気持ちを思い知らされてしまう、さらに酷な要望に応えるしかない状況で度重なる衝撃の事実。この絶望感たるや……。未明の地の止まったときのなかで、ウィステリアはどう動いていくのか、どう生きていくのか。今のままではやるせない気持ちばかりが募る、どうか報われてほしいと思わされる作品だ。

　どちらもタイトルや表紙に惹きつけられて買った作品だ。結果、この世界に片足突っ込んで抜けなくなってしまった。コミカライズはまだまだ序盤の話ではあるが、先が気になって仕方ない場合には、ラノベ原作（小説家になろう）を読むこともありだろう。筆者はもう少し物語の盛り上がりが来てから、原作に手を出したいと思っている。コミカライズはキャラクターの表情や動きがあってこその良さがあるし、原作ラノベは細かな心理描写や、粗削りな部分なども含めて良さがある。両作品を照らし合わせて共通する部分を見つけるのも良いし、焦点の当て方や見せ方の違いを見つけるのも良い、いろんな楽しみ方があるだろう。ぜひ手に取ってみてほしい。