僕の心のヤバイやつ、よふかしのうた、少年ノート……思春期を迎えた中学生の姿に心奪われる漫画たち

　今年も小中高生の夏休みが終わりを迎えようとしている。そのなかでも思春期を迎えたばかりの中学生は夏休みの過ごし方、そして再開する学校生活への思いはさまざまであろう。

　恋心を抱いたり、部活動に励んだり、学校生活に憂鬱さを覚えたりーー。そんな中学生たちの物語を描いた漫画は多い。本稿では思春期を迎えた中学生の姿が描かれる作品の一部を紹介したい。

『僕の心のヤバイやつ』

　電子書籍含む累計発行部数が230万部を突破し、2023年にアニメ化が発表された『僕の心のヤバいやつ』（以下、僕ヤバ）。クラスメイトから距離を置く中学2年生の男子生徒・市川京太郎、そして雑誌モデルとしても活動する美少女であり市川の同級生・山田杏奈のふたりを中心とした中学生の日常が描かれる作品だ。

　物語が進むなかで市川と山田はお互いを少しずつ意識するようになり、何気ない行動に恥じらいや嫉妬を覚えるようになる。そんな上手にかみ合わないふたりのコミュニケーションは、異性への意識が芽生え始める思春期特有の人間模様を感じさせる。

　また死体に興味があるといった市川の抱く残虐な思考は、俗に中二病とも呼ばれる中学生らしいものであろう。そんな市川のほか異性のクラスメイトに対し下心を見せる男子生徒の姿も多くの中学校のなかに存在している景色であるといえるはずだ。

『よふかしのうた』

　2022年夏季からTVアニメの放送が開始され、電子書籍含む累計発行部数は250万部を突破している『よふかしのうた』。本作の主人公は『僕ヤバ』の市川たちと同様に中学2年生の夜守コウという少年だ。

　中学校に通っていたコウはとある女子生徒からの告白を断ったことでクラスメイトから責め立てられてしまい、それ以降コウは学校へ行かないようになった。昼間に登校しないためか夜に眠れなくなったコウは夜の街で吸血鬼・七草ナズナと出会い、ふたりは“恋”をするため“よふかし”をする日々を過ごすこととなる。

　『僕ヤバ』の市川と山田のふたりと同じく、コウとナズナたちの恋愛的な関係が描かれる本作において、コウの抱く“学校へ行きたくない”という気持ちは多くの人が味わったことのある感情であろう。また中学生となってから夜更かしをするようになった人も多いはず（コウのように夜間にひとりで徘徊をしていた人は少ないだろうが……）。

　学校で少し嫌な感情を覚えたときや、どこか心に穴が空いたような感覚があるときなど……。そんなときに過ごす、明るくにぎやかな昼とは対照的な夜のひとときは、波立った気持ちに安らぎや充足感を与えてくれるものであると感じる。中学生のころに夜更かしをしていた人に、本作で描かれるコウたちのよふかしは、まだ夜更かしに新鮮さを覚えていたころの感覚を思い出させてくれるはずだ。

『少年ノート』

　合唱といえば多くの人が中学時代に経験したことのある経験のひとつであろう。そんな合唱に打ち込む中学生たちにスポットライトが当てられる『少年ノート』は、さまざまな境遇や心情を抱く中学生たちの視点が群像劇として描かれる作品だ。

　とある中学校に入学した1年生・蒼井由多香は、周りが一目置くほどの才能をもつボーイソプラノとして合唱部に入部する。河や海が身近にある街を舞台に、合唱部の中学生たちは全国大会出場を目指し奮闘する様子が描かれる。

　才能のある者として描かれる由多香は、作中で才能があるために浴びる声や歌うことそのものに悩みを抱くこととなる。悩みを抱え、葛藤しながら大人へ向かって少しずつ成長しつつ、声変わりによってボーイソプラノとしての歌声を徐々に失っていく。

　そんな由多香の成長と共に描かれるのは、“フツウ”であることに満足できず意地を張る部長の男の子や、思っている言葉を声にすることが怖い引っ込み思案な女の子。大人になることや自身の性、なりたい自分を探すことなど、それぞれに悩む少年少女の姿である。

　身体的な成長だけでなく自立へ向かうために精神的な変化も見られる思春期において、悩みを抱かない人はほとんどいないだろう。生涯において限られた期間である思春期を、ボーイソプラノ、そして声変わりと共に描くことにより、悩んでいた日々に戻れないからこそ、悩む少年少女たちの姿は儚さを感じるものとなる。ゆえに本作に登場するすべての少年少女からは、まじりけのない美しさを感じる。

　本稿で挙げた作品以外にも『今日から始める幼馴染』や『惡の華』も中学生の心情が巧みに描かれている漫画であろう（『惡の華』は物語後半で高校編も描かれるが）。もしも夏休みが明ける直前に学校へ行きたくないと思っていたのなら。これらの作品はあなたに共感や新鮮なきづき、そして思春期だったころのなつかしさを与えてくれるだろう。