海が走るエンドロール、ブルーピリオド、A子さんの恋人……人気漫画から“創作と海”の関係を考える

 “創作活動”を題材とした漫画作品は多い。直近の話題作として、「このマンガがすごい! 2022(オンナ編)」第1位に選ばれた『海が走るエンドロール』、「マンガ大賞2020」を受賞した『ブルーピリオド』などが挙げられるだろう。

 絵画や映画など創作の題材はさまざまあるが、多くの作品で“海”の描写が見られるのが印象的だ。本稿では創作を題材とした漫画作品において、海がどのように描かれているか考察したい。

『海が走るエンドロール』

 本作の主人公は、夫と死別し娘も実家を離れ、ひとりで暮らす65歳の女性・茅野うみ子。うみ子が思いつきで訪れた映画館で出会ったのは、映像制作を学ぶ男子大学生・濱内海(カイ)。海と知り合ったことをきっかけに、うみ子は映画創作の世界に踏み入れることとなる。

 『海が走るエンドロール』というタイトル、「うみ子」や「海(カイ)」といった登場人物の名前をはじめ、本作を読み進めるなかで海の存在を感じる瞬間は多い。

 たとえば1巻「第1話」でカイに“映画作りたい側(こっち)なんじゃないの?”と尋ねられ玄関で立ち尽くすうみ子の足元には海の波が押し寄せる描写が登場する。また1巻「第5話」でうみ子は作る人と作らない人の境界線について“船を出すか/どうか”と話し、カイが海をつれてきたことを心の中で語った。

 本作において創作活動をはじめることは“大海原に船を出す”、理想的な作品をつくることを“対岸を目指す”など、海を用いて創作活動をつづけるうみ子たちの行動や心情が巧みに表現されている。

 そのほか教授から厳しい言葉を受けた際には雷に打たれたかのような描写も登場し、インフルエンサーとして活躍する芸能人「sora」が現れた際には“台風の目”、“落ち着いた空を搔きまわす空だ”と語られた。

 海は天候に大きく影響をうける。大海原で船を漕ぐ創作活動において、刻々と変化する空のような外的要因が存在しており、その多くは他者の存在であると見受けられる。

『ブルーピリオド』

 映画製作を題材とした『海が走るエンドロール』のほか、『ブルーピリオド』の5巻「【20筆目】俺たちの青い色」においても海の描かれる場面が登場する。

 東京藝術大学入試の二次試験に備え絵を描き続けていた八虎は、いつもと様子が異なる予備校の同級生・ユカと共に小田原駅を訪れ、海が見える民宿でユカの話に耳を傾けながら一夜を過ごす。翌日ふたりはチェックアウトまでの時間を使い自身の裸を描くこととなる。

 八虎にとって二次試験にも生きる経験となったこのエピソードであるが、事の始まりは悩みを抱くユカが“君は溺れてる人がいたら救命道具は持ってきても海に飛び込むことはしない”と八虎に言葉をぶつけたことであった。

まるで海に溺れているかのような苦しさを覚えるユカのため、八虎はユカと共に時間を過ごすことを選んだ。小田原で宿泊する場面では海の中に飛び込んだかのようなふたりの姿も描かれている。

 創作の世界という大海原に漕ぎ出す際には、誰かに傷つけられたり、自分自身を見失ったりなど、ときに海に溺れてしまうかのような苦しさを覚えることもあるだろう。海の荒れ具合や空模様など、水面より上に広がる世界が視覚的に描かれた第3巻までの『海が走るエンドロール』とは対照的に、このエピソードは海の水面より下にある存在を描いたものであろう。創作をつづけるなかで感じる苦しみのひとつが描かれたものであったはずだ。

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