ブラック・カルチャーのムーブメント『アフロフューチャリズム』 日本ではじめて網羅的に解説した話題書

『アフロフューチャリズム』刊行

 ブラックカルチャーファン必読の大作『アフロフューチャリズム ブラック・カルチャーと未来の想像力』(イターシャ・L・ウォマック=著、押野素子=訳、大和田俊之=解説)がフィルムアート社から8月26日に刊行される。

 取り上げられるのは、サン・ラー、オクテイヴィア・E・バトラー、ジョージ・クリントン、マイルス・デイヴィス、ジャネール・モネイ、サミュエル・R・ディレイニー、ニヨータ・ウフーラ(「スター・トレック」)、ブラックパンサー(マーベル)など。彼/彼女たちが夢見た宇宙、切り開いた未来とはなにか?

 文学、音楽、映画、美術、コミックス。あらゆる表現を横断し、フェミニズム、社会運動を駆り立てたSF的想像力とテクノロジーの精神史になっているという。

 テクノロジー、未来、宇宙と黒人文化が結びついたムーヴメント「アフロフューチャリズム」。1992年に批評家、マーク・デリーによって名づけられたこの概念は、現在もなお映画・小説・音楽などのポピュラー・カルチャーのなかに見出すことができる。

 たとえば『マトリックス』、『スタートレック』、『スペース・イズ・ザ・プレイス』といった映像作品、サン・ラー、ジョージ・クリントン、リー・スクラッチ・ペリー、マイルス・デイヴィス、ジャネール・モネイ、フライング・ロータスなどが実践している音楽、オクテイヴィア・E・バトラー、サミュエル・R・ディレイニー、ンネディ・オコラフォー、N・K・ジェミシンらが記した小説など。さまざまなジャンルにおいて黒人文化と未来的表象が結びついたアフロフューチャリズム的表現はおこなわれており、あらゆる表現を横断する大きな思想・ムーヴメントといえるとのこと。

 著者のイターシャ・L・ウォマックは映画・音楽・小説・美術・コミックスなどの実例と、当事者たちへのインタビューから、アフロフューチャリズムは「想像力、テクノロジー、未来、解放の交差点」であり、「SF、歴史小説、思弁小説〈スペキュレイティブ・フィクション〉、ファンタジー、アフリカ中心主義〈アフロセントリシティ〉、マジックリアリズムといった要素を非西洋的な思想と結びつける」思想だと定義づけている。

 また、本書ではアフロフューチャリズムは表現の分野に限られたものではなく、フェミニズムや社会運動、あるいは個人の生き方にも影響を及ぼす、現実を変革する思想であることにも触れられる。単なる文化的な潮流としてだけではなく、そこに通底する想像力の萌芽が、彼/彼女たちを突き動かし、過去を乗り越え、未来を書き換える思想としての広がりを見せている。

 人種、民族、社会による制限を打破し、個人が自分らしくあるために力を与え、自由を得るための思想「アフロフューチャリズム」。日本ではじめて網羅的にこの思想を解説した、今後参照されるべき古典が生まれた。

コメント

「1992年に私がアフロフューチャリズムという言葉を作った時、イターシャ・ウォマックのような若き文化批評家が、この言葉を独自のものにするなど、まったく予想もしていなかった。現在の政治に重点を置き、読みやすく書かれたこの本に誘われ、私たちは知的ワームホールを通り、暗黒物質がとうとう可視化された宇宙へと突入するのだ。」
――マーク・デリー(文化評論家、「アフロフューチャリズム」提唱者)

著者プロフィール

[著]イターシャ・L・ウォマック(Ytasha L Womack)
映像作家/フューチャリスト。『Post Black: How a New Generation is Redefining African American Identity』、『2212: Book of Rayla』の著者でもある。マルチメディアで展開する『Rayla 2212』シリーズの クリエイターであり、映画『The Engagement』を監督したほか、『Love Shorts』ではプロデューサー兼ライター、『Beats Rhymes and Life: What We Love and Hate About Hip-Hop』では共同編集者を務めた。
「エボニー」誌、「シカゴ・トリビューン」紙など多数の出版物に寄稿し、『E! True Hollywood Stories: Rappers Wives』にも出演している。

[訳]押野素子(おしの・もとこ)
翻訳家。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、レコード会社勤務を経てハワード大ジャーナリズム学部卒業。ワシントンD.C.在住。
訳書にナナ・クワメ・アジェイ゠ブレニヤー『フライデー・ブラック』(駒草出版)、シャネル・ミラー『私の名前を知って』(河出書房新社)、ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン『MARCH』(岩波書店)、ジェフ・チャン『ヒップホップ・ジェネレーション』(リットーミュージック)などがある。

[解説]大和田俊之(おおわだ・としゆき)
1970年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻後期博士課程修了。博士(文学)。慶應義塾大学法学部教授。
『アメリカ音楽史──ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』(講談社選書メチエ)、『アメリカ音楽の新しい地図』(筑摩書房)、共著に『文化系のためのヒップホップ入門』1〜3(アルテスパブリッシング)などがある。

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