『美少女戦士セーラームーン』短編「カサブランカ・メモリー」に見る、火野レイの気高き魅力

 武内直子作の『美少女戦士セーラームーン』の説明はほとんど必要ないだろう。平成初期の代表的な少女マンガの一つであり、今もなお人気の作品だ。

 今回は『美少女戦士セーラームーン』に登場するキャラクター、火野レイの魅力について言及したい。

 火野レイは14歳。私立T・A女学院に通う女子中学生であり、火川神社の巫女でもある。霊感が強く、カラスのフォボスとディモスが懐いている。そんな不思議な少女として描かれる一方で、クールな一面を持っている。主人公・月野うさぎにとっては「怒るとちょっとコワい」存在だが、それは火野レイの責任感の強さの表れでもある。男嫌いで、うさぎたちからも少し距離を取っている、孤高の存在……。

 そんな火野レイの一面をよく表しているスピンオフ短編がある。それは1993年に特別編として描かれた「カサブランカ・メモリー」だ。

 「カサブランカ・メモリー」の冒頭、レイは見知らぬ男性から真っ赤な薔薇をもらう。うさぎや水野亜美は羨ましそうにレイに話しかけるが、レイは興味がなさそうだ。

よろしかったら
もらっていって

あたくし
知らないかたから
プレゼントいただく
おぼえないし

男の人って
キョーミないから

 レイは艶やかな黒髪をなびかせながら、そう言う。うさぎや亜美はちょっと寂しそうだ。レイは自分の誕生日もふたりに知らせず、なかなか自分のことを喋らないからだ。

 レイに似合うのは真っ赤な薔薇ではない。題名にもなっている真っ白のカサブランカだ。

 誕生日に疎遠気味の大物政治家から送られてくるのは、真っ白な百合の花束と白いドレス。そして誕生日を知ったうさぎと亜美は人気の「レイン・ツリー」というオルゴールをプレゼントした。

 レイは父親のことを嫌っていた。家族を顧みないレイの父は家に寄りつかず、レイの母は寂しい想いをして、病に倒れてそのまま亡くなってしまった。レイはそんな父と一緒にいたくないのか、祖父が神主をしている火川神社で生活をしている。

 レイの誕生日のプレゼントは実は父親が選んでいるのではない。レイの父の第一秘書をしている海堂が選んでいるのだ。

 海堂はレイが小さい頃から火野宅に出入りしており、レイの母が亡くなって火川神社に生活の拠点を移してからも、レイのことを気にかけている、兄のような存在だ。

 レイが6年生のときのことだ。レイと海堂が街中を歩いているとき海堂が誕生日はなにが欲しいかレイに尋ねてきた。レイは花屋に飾られている白い百合に目を奪われる。そのとき海堂がカサブランカですよ、と教える。その年からカサブランカの花束と白いワンピースが送られてくるようになった。

 前の年、レイの誕生日は海堂とふたりで食事をした。父の件で人間不信気味であるレイ。海堂も政界に入るものだと思っていた。しかし、海堂は政治に向いてないと言う。

自分の娘を
不幸には
したくないな

……わたしは
おとなに
なりきれないから
政治には
むいてない

結婚も
ちっとも
する気に
なれなないし
このままが
いいって
思っているんですよ

 レイは静かにひとりで生きていく覚悟をしていたので、海堂の言葉にほほ笑む。

――おなじね
あたしたち
同志ね

 しかし、海堂は政治家の道を選び結婚することになる。淡いが確かなレイの初恋は終わった。そして本当の同志はレイの周りにいた。

いまのあたしに
恋なんか
必要ない

だって 同じ
目的をもった
同志がいるもの

みんなが
いるもの ね

 レイは目を輝かせながら、セーラーマーズの姿でセーラームーン、マーキュリー、ジュピターに言う(このスピンオフ作品の時間軸にはセーラーヴィーナス・愛野美奈子は登場していない)。

 しなやかに強い火野レイはいつ見ても眩しく、筆者もこのように気高くありたいと思う。何度読んでも発見のある『美少女戦士セーラームーン』の「カサブランカ・メモリー」だ。

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