【6月発売BLコミックレビュー】『ピンクハートジャム』『スモークブルーの雨のち晴れ』などゆっくり恋を育む5作品
毎月、筆者が「出会えてよかった」と胸に刺さったBL作品を紹介している「BLコミックレビュー」。今回は2022年6月に発売された作品のなかから5作品をピックアップした。
■2022年1月のレビュー
■2022年2月のレビュー
■2022年3月のレビュー
■2022年4月のレビュー
■2022年5月のレビュー
『ピンクハートジャム』
(しっけ/eyesコミックス/ホーム社)
以前2022年の注目BLコミックスでも取り上げた『ピンクハートジャム』。大学の重音楽部で出会った新入生・灰賀と先輩・金江の、ギャップに溢れるピュアなラブストーリーだ。
ふたりの初の会話は、優良風俗店。自身のセクシャリティを確かめるために店を訪ねた灰賀は、そこで恋人探しをするために働いていた憧れの先輩・金江のサービスを受けることとなる。
刺激的なスタートを切ったふたりの関係。しかしそこからは互いの心を探り合ったり、自分の気持ちと向き合ったりと、じれったいほどにゆっくりと恋心が育まれていく。
またふたりは、互いのセクシャリティや恋愛への考え方を共有しており、関係を深めたい気持ちはありつつも無理強いはしない。相手の速度を尊重する関係性が、もどかしくも心地よい一作だ。
『今宵ツバメと見る夢は』
(ここのつヒロ/花音コミックス/芳文社)
『今宵ツバメと見る夢は』も、セックス恐怖症の福田つばめが恋多き外国人セレブ・サイードから「君の○○○○(大人のオモチャ名)になろう」と申し出られるという、そう起こりえない強烈な出会いから物語は始まる。が、蓋を開けてみれば恋愛下手なふたりが一歩一歩恋の階段をのぼっていく、純愛成分高めの作品だ。
ふたりの恋愛には、知らず知らずのうちに自分の理想を押し付けていたり、相手を想っているようで自分のことしか見えていなかったりと、誰かを好きになった経験がある人なら痛いほどわかる“青さ”が垣間見える。この青さが、ふたりの恋をなかなか前に進ませない。
だからといってストーリーの停滞を感じることはない。むしろテンポよく挟まれるコメディ演出と、ふたりの心情に寄り添う時間をくれるシリアスな展開のバランスが絶妙なのだ。
不器用なふたりの恋をただただ応援しているうちに、自分までハッピーになれる一冊だろう。
『スモークブルーの雨のち晴れ 1』
(波真田かもめ/フルールコミックス/KADOKAWA)
製薬会社の元同期でライバルの吾妻朔太郎と久慈静の、8年ぶりの再会とその日々を描く『スモークブルーの雨のち晴れ』。会社を辞め危ない夜遊びを繰り返していた吾妻の前に、早々に退職し翻訳家となっていた久慈が現れる。
同作は、大人の等身大BLだと思う。ふたりは38歳。仕事においてもプライベートにおいても、いろいろ経験を重ねてきた年代だ。突然の再会でいろいろ聞きたいことはあっても、自分にだって言いたくないことの1つや2つはある。だからふたりは、興味はあっても互いの深部にズカズカと入っていくことはしない。穏やかな時間を共有するなかで、自分のことをぽつりぽつりと話す相手をただただ受け止める。この大人の距離感の描き方がなんともリアルなのだ。
またふたりの関係が不明瞭なまま進む点にも、大人を感じる。関係性に名前がつくことを急がない空気感に、しっとりとした色気を感じる作品だ。