【6月発売BLコミックレビュー】『ピンクハートジャム』『スモークブルーの雨のち晴れ』などゆっくり恋を育む5作品
『彼らをたどる物語』
(チョコドーナツ/BABY コミックス/ふゅーじょんぷろだくと)
『彼らをたどる物語』も、1組のカップルがじっくりと愛を育む過程が描かれている作品だ。しかし主役は、”彼ら”ではない。彼らは、幼い少女から見た高校生のふたり、バイトの女の子から見た少し大人になったふたりといった、複数の女性から見た“何気ない日常にいるふたりの男の子”として描かれていた。
いろんな場所、時間でたまたま出会った人たちの視点で切り取られるふたりの物語を通して読者は、彼らがどんな人生を歩んできたのかを、アルバムのページをめくるかのように追体験できる。そのなかには、「好きな人を自由に好きと言えない」生きづらさを抱えてきたことも、彼らの言葉や周りの態度を通して描かれていた。
静かに、でも確かに育まれる恋模様に心があたたまると同時に、この作品のラストが現実の世界でも当たり前になる社会になってほしいと願わずにいられない。
『ボーイズラブお祓い申す!』
(やんちゃ/バーズコミックス リンクスコレクション/幻冬舎コミックス)
今回ピックアップした作品のなかでは異色の一作が、この『ボーイズラブお祓い申す!』だ。配信ドラマにもなった『絶対BLになる世界 VS 絶対BLになりたくない男(以下、絶対BL)』(紺吉/祥伝社)同様、BLあるあるを描く。絶対BLと比較するとギャグのテンションが高く、メタ要素もよりエロティックな部分に踏み込んでいる印象だ。
本作はゆっくりと恋が育まれていく、というより、ゆっくりにならざるをえないという表現がしっくりくるかもしれない。なぜならBLを愛する人たちの無念から生まれた理想の攻め様生霊「BL霊」を祓う信太と祓われるヤスの、あくまでビジネスから始まる関係性を描くからだ。
除霊は、ヤスに患者のBL霊を憑依させ、理想の攻め様となった彼の御柱と信太の龍穴を使って執り行われる。信太にとってこの行為は仕事でしかない。そのため芽生えた恋愛感情の正体が分からないのだ。しかもヤスも、BL霊憑依体質の持ち主ときた。自分ではない自分でしか相手を抱けないヤスと恋愛感情が分からない信太では、恋を育むのもそう簡単ではない。
矢継ぎ早に投入される、BLあるあるネタ。そのカオスの中にも見え隠れする恋の芽生えを、どうか見逃さないでほしい。
2022年下半期も、減速を知らないBLコミックワールド
2022年もあっという間に上半期が終了した。6月分を含め筆者がリアルサウンドブックで紹介してきたBLコミックスは、本当にごく一部にすぎない。
残り半年。2021年度のBLアワード受賞作家の作品や、話題になっていた連載の単行本化も控えている。BLコミックスの盛り上がりは、ますます加速しそうだ。