大槻ケンヂ×ISHIYAが語る、80年代ハードコアの衝撃 「完全に『マッドマックス』の悪影響(笑)」
楽器は弾けないのが普通
大槻:高校時代に渋谷のLa.mamaでやっていたイベントに参加したときのことも鮮烈に覚えています。当時のアングラなバンドが多数出演するイベントだったんですけれど、La.mamaの前でパンクスの人たちがアキレス腱固めを掛け合いながらゲラゲラ笑っていたんですよ。それで「怖いなぁ」と思っていたら、その人たちがとあるバンドの演奏中に花道を走っていって、舞台上のバンドマンたちの後ろについて全員をバックドロップでぶん投げたんです! で、そのまま楽器を奪って演奏し始めて……。
ISHIYA:それ鉄アレイですね(笑)。投げられたバンドが、先輩のバンドメンバーと揉めたか何かで、その仕返しということで後輩の鉄アレイが乱入したみたいです。
大槻:あんなに素早い転換は後にも先にも見たことがありません。もう一瞬で投げて、すぐに演奏を始めてましたから。ローディーさんいらないんだなと思いましたね(笑)。改めてハードコアには近寄らないようにしようと思った瞬間でした。
ISHIYA:鉄アレイは、当時スキンヘッドでMA-1というファッションのとにかく肉体派で、音楽より見た目重視。法政大学のイベントでは、誰が1番遠くまで人間を投げられるかを競う人投げコンテストをやっていて、俺も投げられましたね(笑)。
大槻:いやぁ、すごいですね(笑)。そもそもISHIYAさんは、にら子供にいらっしゃいましたよね?
ISHIYA:にら子供でベース弾いていましたね。でも、本当はベース弾けないのですぐに辞めちゃいました(笑)。
大槻:当時はみんなそんな感じでしたよね。楽器は弾けないのが普通。トラッシュ連も、最初はみんなディスコに溜まっているかっこいい暴れん坊集団だったのが、バンドやろうぜという話になるんだけれど、実際にバンド組んだらほとんどのメンバーが楽器演奏できないという(笑)。僕らの場合も、とにかく自己表現がしたい、ライブハウスに出たいという気持ちが先にあって、ライブハウスに出るにはバンドを組まなきゃいけない、バンドを成り立たせるには演奏ができなきゃいけないという感じで、全部後付けでした。たまたま楽器ができるやつが一人でもいると、そいつを軸にだんだん形になっていく感じで。
ISHIYA:全部後付けです(笑)。筋肉少女帯でもTHE TRASHや俺らと同じなんですね。
大槻:流れ的には同じですね。でも、THE TRASHは強面の方々でかっこいいじゃないですか。僕らの場合はオタクの奴らがニュー・ウェイヴを見て、こういうことならできるんじゃないかって感じで始まってるから、もっとダサかったと思います(笑)。ベースの内田(雄一郎)くんのお父さんがエレクトーンを持っていたから、よしそれでバンドをやろうということになって、内田くんのお父さんの部屋で演奏するんですけれど、エレクトーンは重くて持ち出せないから、お父さんの部屋限定のバンドでした。
ISHIYA:ぎゃはは(笑)。
大槻:それで『天国注射の昼』のビデオを見て、「マサミさん怖ぇ……」って震えている感じ(笑)。マサミさんの二つ目のバンドのGHOULも改めて聞いてみたんですけれど、歌詞がないというのが結構衝撃的で。演奏に乗せて、フリー・インプロビゼーション的に叫んでいたんですよね。
ISHIYA:そうです。その場の感情を叫んでいる感じで、言葉にしていないんですね。周りの人に話を聞いた感じだと、「あいうえお」みたいに文字で表現することさえ嫌だったんじゃないか、という説もあります。もしかしたら単に適当だっただけかもしれないけれど、ライブのときのオーラはめちゃくちゃすごかった。マサミさんがステージに出てきただけで、ライブハウスの空気がガラッと変わって持っていかれちゃう。歌詞とかもう関係ないんですよ。
大槻:前衛的というか、アバンギャルドというか。
ISHIYA:ノイズとかに近い表現だったかもしれないですね。バンドの演奏はちゃんと楽曲になっていたんですけれど、マサミさんの叫びは毎回違っていたりしました。自分のライブのときには暴れることはほとんどなかったので、いつもすごいなと思って観ていたんですけど、マサミさんは、ほかのバンドを観ているときの方が危なかった(笑)。
大槻:お客さんにしてみると非常に迷惑ですよね(笑)。
ISHIYA:でも、みんなの憧れの人なので、近くにいると嬉しかったりもするんです。いつ暴れ出すかわからないから、一挙手一投足をずっと気にしていなきゃいけなくて、常にマークしていなきゃいけないけど(笑)。いつもマサミさんと一緒だった、THE TRASHのヒロシさんが持っていた鎖の「チャラ……」っていう音がしたら「きた!」って逃げ出したりして。
大槻:プロレスラーより目立ってしまう悪のマネージャー的な感じですね(笑)。当時、マサミさんたちは顔パスでライブハウスに入っていたんですか?
ISHIYA:THE TRASHのメンバーとかはそうですね。一応、警備とかいう名目らしいんですけど、入って暴れているだけだったようです(笑)。俺も顔を覚えてもらってからは、ハードコアのライブはただで入れるようになっていきました。