昭和史ミステリー、なぜ増加? 当時のテレビ業界を描く、辻真先『馬鹿みたいな話!』の面白さ

昭和史ミステリー、なぜ増加?

 だから事件が、なかなか起こらなくても退屈することはない。序で死体発見の場面を描いた後、物語は数ヶ月前に戻り、『幸福が売り切れた男』が放送されるまでの経緯を、じっくり描かれる。ちょうど娯楽の王様の座が、映画からテレビに代わる時期であり、テレビの現場は熱気に満ちていた。作中で書かれているように、2年前に「SFマガジン」が、一昨年の春には「少年マガジン」、「少年サンデー」が創刊されている。日本のエンターテインメントが、大きく変わろうとしていたのである。そのような時代をリードするかのように、番組を作り上げていく人々の活気が、楽しい読みどころなのである。

 もちろん、ミステリーとしても歯ごたえあり。なにしろ生放送中の殺人事件だ。撮影スタジオの扉は閉められているので、犯人は現場にいるはず。しかし捜査が進むと、みはるを殺せた者がいない。だとすれば、密室殺人といっていいのではないか。この不可能犯罪を一兵と勝利が、鮮やかに解決する。事件関係者の苦い想いも含めて、いいミステリーを読んだという満足感に浸れた。

 NHK時代は覚えていないが、その後のテレビアニメの脚本、漫画・劇画の原作、ミステリーと、長年にわたり辻真先作品を楽しみ続けてきた。本書の帯には〝ミステリー界のレジェンド〟とあるが、私にいわせれば〝エンターテインメント界のレジェンド〟だ。フィクションではあるが本書で、そのレジェンドの一端に触れることができ、嬉しくてならないのである。

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