『シン・ウルトラマン』ヒットで読みたい、特撮ファン必見の“ウルトラマン小説”3選

ウルトラマン小説3選

 庵野秀明の脚本・総監修で樋口真嗣が監督した映画『シン・ウルトラマン』が絶好調だ。1966年にテレビ放送された『ウルトラマン』からのファンも、平成以降のウルトラシリーズの視聴者も取り込み、次を望む声も聞こえ始めている。映画ではそうした声にすぐには応えられそうにもないが、『シン・ウルトラマン』に似たコンセプトで書かれた小説なら、実はいくつも刊行されている。

一口に『ウルトラマン』のファンと言っても、魅かれるところは人それぞれである。ただ、概ね「怪獣派」「ウルトラマン派」「巨大フジ隊員派」の三つの派閥に分類できるのは明白だろう。

 「SFマガジン」2016年8月号に作家の小林泰三が、「巨大フジ隊員のこと」というタイトルで寄せた文章で示したこの指摘が正解だったことは、『シン・ウルトラマン』を見た人なら分かるだろう。怪獣であり外星人といった異形の存在から醸し出される魅力と、ウルトラマンという孤独なヒーローに抱く憧れが、『シン・ウルトラマン』ではしっかりと感じられた。

 だったら「巨大フジ隊員」は? といったところを説明すると、『シン・ウルトラマン』の内容に踏み込むことになるので、そこは映画を見て確かめてほしい。オリジナルの『ウルトラマン』に限れば、第33話「禁じられた言葉」に登場した「巨大フジ隊員」、科学特捜隊のフジ・アキコ隊員がメフィラス星人によって40メートルほどの巨人にさせられた姿は、神々しさと荒々しさを合わせ持った地母神のような存在感で、見る人を引きつけた。

 1962年生まれの小林泰三が子供心に受けた衝撃にも凄まじいものがあったのだろう。以来、ずっと「巨大フジ隊員」について考え続け、そして書き上げたのが小説『ウルトラマンF』(ハヤカワ文庫JA)だ。

 ゼットンと戦い敗れたウルトラマンが、ゾフィーによって救われ、早田進に体を返して光の国へと帰った後も、地球は怪獣や異星人の脅威にさらされていた。ウルトラマンの助けはもう借りられないとあって、科学特捜隊では井手光弘が中心となって一種の装甲服を開発し、脅威に対抗しようとしていた。

 世界でも人間を巨大化させる実験が繰り返されていた。モルフォ蝶の毒鱗粉を絡めているところは、『ウルトラQ』の第22話「変身」を参考にした描写で、特撮ファンならニヤリとしそう。もっとも、その実験体が暴走したことで、科特隊の富士明子隊員は巨人に蹴り飛ばされて命の危機にさらされる。普通の人間なら確実に死ぬ場面だが、そこで驚きの出来事が起こった。

 驚きを削がないために詳述は避ける。ただ、『ウルトラマンF』というタイトルにある「F」が「Female(女性)」から取ったものだということや、表紙に描かれたグラマラスなボディラインを持ったウルトラマンらしき存在から、「巨大フジ隊員派」の小林泰三が自分の願望を余すところなくぶち込みつつ、人類を守る新たな存在を創造したということに、思い至ってほしい。

 質量保存の法則を破るような事態に科学的な説明をつけ、リアルさを持たせようとした点は、『シン・ウルトラマン』にも共通する現代ならではのリブート方法。これに、新たな敵の設定なども加えて小林泰三が世に問うた新しいウルトラマンが続き、広く認知されれば、ジェンダーフリーの時代に相応しいウルトラシリーズが立ち上がったかもしれない。残念なことに小林泰三は2020年11月に死去。遺された「巨大フジ隊員派」の聖典として、『ウルトラマンF』は読み継がれてほしい。

 『ウルトラマンF』は、早川書房と円谷プロダクションが組んだシリーズの1冊として刊行された。同じシリーズからは、三島浩司による『ウルトラマンデュアル』(ハヤカワ文庫JA)も登場。ヴェンダリスタ星人が地球に侵攻し、そこに光の国が宇宙警備の名目を掲げ干渉して、壮絶な戦いが繰り広げられた。今は均衡状態にあったが、そこで光の国を支持すると、ヴェンダリスタ星人の攻撃を誘発する恐れがあって人類は表向き中立を表明。その裏で、光の国の“飛び地”に人間を送り込み、ウルトラマン化させてヴェンダリス星人との戦いを続けていた。

 ヴェンダリスタ星人がときおり落下させる怪獣によって地上が破壊され、大勢の人が死ぬこともあって、人類の中にはヴェンダリスタ星人に隷属することを求める声もあった。体を分裂させて人に憑依し操るヴェンダリスタ星人による圧政に、心を折られて従う人も少なからずいた。すべての人類が一致してウルトラ戦士を支持している訳ではない構図が、テレビシリーズとは違ってユニークだ。

 人間が“飛び地”へと行きウルトラ戦士になる際に、記憶の一部を失ってしまうことや、それを厭わずにウルトラ戦士になったとしても、怪獣との戦いで命を落としてしまう者もいることが、ヒーローに痛々しさを感じさせて単純な憧れを許さない。二柳日々輝も前任者が死に、後を継ぐようウルトラマンデュアル2になったものの、戦いの中で腕を切り落とされるなど散々な目に遭う。

 人々の声援がエネルギーになる存在でありながら、全面的な支持を受けられない難しい状況にあって、それでも自分の正義を信じて戦うウルトラマンデュアル2や、いっしょに“飛び地”へと渡りウルトラマンになった者たちの抵抗に、心の中で頑張れと言いたくなる。ヴェンダリスタ星人の監視の目をかいくぐり、地上から“飛び地”を支援する人たちのスリリングな活動ぶりも楽しめるウルトラ小説だ。

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